第18話 目覚めた力

 妖精のシャーニーに促されて、俺は聖樹に触れる。


「階段……階段……」


 俺は頭の中に、自分が理想とする聖樹の姿を思い浮かべる。誰かに指摘されたわけじゃない。ただ、そうすることが正しいと思ったからそうしているのだ。


 ――で、その結果、


「うん?」


 なんだか……できそうな気がする。

 漠然とした感覚だが、きっと合っているはずだ。その証拠――と言えるかどうか判断できないけど、触れている部分から熱を感じる。


「どう? 何か感じた?」

「あぁ……やれそうな気がするよ」


 俺は掌に魔力を集中させる。そして、その魔力を聖樹に注いでいく――と、頭の中に浮かぶイメージがより鮮明なものとなった。まるで、これから実際にそのような変化が発生すると予言しているようだ。


 その状態でしばらく経過すると……突然、横揺れが発生した。規模はそれほど大きくはないので気にせず続けていると、


「あっ!」


 最初に声をあげたのはローナだった。

 それに反応して顔をあげると、目の前には俺が思い浮かべたものとまったく同じ階段ができていた。


「!? す、凄い!?」

「どうやら成功したみたいね」


 さも当然の結果と言わんばかりに胸を張っているシャーニー。ただ、俺とローナは何が起きたのかまったく分からなくて呆然としていた。そこへ、


「おいおい! なんか揺れたけど大丈夫か!?」

 

 ルパートさんを含む村の人たちが俺たちのもとへと走ってくる。そして、昼間にはなかった階段が出現したことで一気にざわつきが広まった。


「そ、そんなところに階段があったのか!?」

「今ルディが作ったんだよ!」

「つ、作った?」


 ローナがだいぶ端折った伝え方をしたせいで、村人たちの混乱はさらに強くなる。そこで、俺は聖樹の形状が変化したことについてゆっくりと順を追って説明していくことにした。


 けど、説明している途中でだんだん自分でも訳が分からなくなっていった。

 俺がこの子たちの父親的な存在であり、しかも魔力を注いで聖樹の形が変わるとなったら……言っていてめちゃくちゃだなぁと思う。


 ただ、それは紛れもない真実だ。


「この聖樹が……」

「ルディの思いのままに……」

「そうみたい、です……」


 自分で言っていて、自信はない。

 実際にやってみたっていうのにまだ実感が湧かないんだよな。


「そこまで疑うなら、もっといろいろと試してみたらいいじゃない」


 俺が半信半疑であることが不満らしいシャーニーからそのような提案が飛びだす。


「い、いろいろって?」

「例えば……ウィラのいた空間ってかなり広かったでしょ?」

「あ、ああ」

「そこをあなたが住みやすいように改装したらいいじゃない。――その力で」

「えっ?」


 俺の住みやすいように聖樹を改装……そんなことができるのか? というか、やっていいのか?

 俺の心配を察したのか、シャーニーがニコッと微笑んで言う。


「あなたの好きにしたらいいのよ。ここはあなたの居場所でもあるんだから」

「俺の……居場所……」


 その言葉が、何度も頭の中で反響する。

 とても安心できる――そう思った。

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