第26話 ジェファーズ邸へ
翌朝。
ジェファーズ様の言った通り、迎えの者が村へとやってくる。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね。ふたりをよろしく」
「任せて!」
ローナや村の人たちにウィラとシャーニーを任せて、俺は馬車へと乗り込んだ。屋敷まではかなり距離があるということで、移動時間もそれなりにかかると御者から聞きと、俺は到着までの間にジェファーズ様へ話す内容を思い返していた。
まず、肝心なのはこれまでの経緯を包み隠さず話すこと。
貴族であるジェファーズ様なら、王都で起きたあの凄惨な事件は耳に入っているはず。でも、犯人とされる人物(俺のことだけど)が、牢獄から抜け出して逃走中というところまでは知らないかもしれない。
それらを素直に話した上で――
「……どうしたものか」
聖樹は俺が離れるとその力を失ってしまう。
それは同時に、ウィラやシャーニーの存在までもが消失してしまう可能性を含んでいるのだ。
俺としては王都に戻りたいという気持ちがあるにはあるが……あの村での生活も楽しいと思い始めている自分がいる。どことなく、雰囲気が王都でいつも接していた人たちと似ていて、安心できるんだよなぁ。
……いずれにせよ、まずは正直に話すこと。
それから先のことは、これから考えればいいさ。
俺は馬車が屋敷に到着するまでの間、今後のプランを練っていくことにした。
――数時間後。
御者から「そろそろ到着しますよ」と声をかけられ、ハッとなった。
「いかん……結局何も思い浮かばなかった……」
いろいろと悩んだが、最良の策は出てこなかった。俺が聖樹の近くを離れられないというのがネックなんだよなぁ。それに、ジェファーズ様からは聖樹の管理を任されたわけだし。
でも、せめて俺が無実であるということは証明したいな。
馬車からおりると、屋敷から執事と思われる男性が出てきて、俺をジェファーズ様の書斎へと案内してくれた。
「おぉ、来たか。まあ、座ってくれ。すぐにお茶を淹れさせよう」
相変わらず、いかつい顔でちょっと怖いけど……優しい人なんだなってことがよく分かる対応だ。
部屋の真ん中にあるソファへ向かい合うようにして座り、真ん中に置かれたテーブルには先ほどの執事さんが淹れてくれたお茶が置かれる。これまでに嗅いだことのない、とてもいい匂いがするお茶だ。素人目にも、高価なものだと分かる。
「さて、それでは聖樹のことについて、だが」
「その前に……ひとつ聞いていただきたいことがあります」
「うん? なんだ?」
「実は――」
恐る恐る、俺はあの村へたどり着くまでの経緯を説明した。
最初は驚いたように目を見開いていたジェファーズ様だったが、次第にその表情は険しく引き締まっていく。
もしかしたら、このまま捕らえられてつきだされるかもしれない――そんな恐怖を感じつつも、俺は吐き出すように言葉を並べる。
ジェファーズ様はそれを黙って聞いてくれた。
途中で何か言われるんじゃないかと思ったのだが、特にそういったこともなく、最後まで沈黙したままだった。
そして、大きく息を吐くと、おもむろに口を開く。
「ルディくん。非常に言いにくいことなのだが……」
「は、はい」
「リガンの町へは行かない方がいいかもしれない」
「えっ?」
それは予想もしなかった言葉だった。
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