第25話 決意の夜

 その日の夜。

 俺はルパートさんの家で一緒に夕食を済ませると、船を借りて聖樹へと戻ってくる。

 そこではウィラとシャーニーが待っていて、今はふたりともぐっすり眠っていた。


 ――数時間前。


 ジェファーズ様は俺との会談の約束を取りつけると、「次の仕事がある」と告げて村をあとにした。

 本当に、ただ聖樹の報告が正しかったかどうか確認しただけだったようだ。

 あれくらいの立場があって多忙な人なら、使いの者を送って後から報告させるっていう手段も取れたはずだ。それをあえて行わず、空いた時間を使ってわざわざここまで自ら足を運んで来るなんて……。


 ただ、ルパートさんの話では、ジェファーズ様は以前にもこの村を訪れたことがあったらしいく、今回が初めての来訪というわけではなかったという。その時は連日の大雨がようやく止んだ直後で、湖の増水を気にかけて視察に来たって話だ。


「自分の領地のことをちゃんと見ている人なんだなぁ……」


 俺は貴族というと、教会にいた頃から世話になっていたコーベットさんくらいしか知らない。でも、これまで聞きかじった情報を総合すると、そこまで熱心に領地運営をやっている人物は耳にしたことがなかった。


 もっと言ってしまえば、民衆から支持を得ている貴族は少ないってことだ。

 これに関しては、その余裕ある生活ぶりに対するやっかみも多分に含まれているのだろうが、コーベットさんのように大々的な慈善活動を展開する人が少ないので、実際何をやっているのか不透明な点はある。


 まあ、それはともかく、こうした情報から、俺はますますジェファーズ様に事の真相を話すべきだと考えていた。


 どうすれば、無事にリガンの町までたどり着けるのか……何か、ヒントになることでも教えてもらえれば――


「難しい顔をしているわね。どうしたの?」

「わっ!?」


 考え込んでいると、女の子の声がして思わず飛び上がって驚く。


「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「ご、ごめん――って、どうしてローナがここに!?」


 村に残っているはずのローナが、なぜか俺のすぐ近くに立っていた。


「心配になって様子を見に来たのよ。夕食の時は元気そうに振舞っていたけど……どこか困っているというか、迷っているように見えたから」

「ローナ……」


 ……勘が鋭いな、ローナは。

 

「俺のことなら心配いらないよ。明日のことでちょっと緊張していただけだから」

「明日のこと?」

「貴族の屋敷に招かれるって初めてのことだからさ……何か粗相して、ジェファーズ様を怒らせてしまわないか、ちょっと不安なんだ」


 これは嘘ではない。

 子どもの頃から接しているコーベットさんならば、それほど緊張はしないのだろうが、今日会ったばかりの人だからなぁ。正直、何が起こるか分からない。

 それを聞いたローナは、


「ふーん……そっか」


 と言って少し考えた後、


「決めた! 今日は私もここで寝るわ!」

「えっ!?」


 そんな提案をしてきた。


「で、でも、それは――」

「大丈夫! ほら、もう寝ましょう?」


 ローナに腕を引っ張られる――もしかして、これがローナなりの励ましなのかな。

 俺は小さく笑みを浮かべた後、ローナのためのベッドづくりを始めるのだった。

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