第24話 聖樹の父
「どうなんだ? 君がパパで主様なのか?」
ズイッと迫るジェファーズ様の顔……正直、めちゃくちゃ怖い。まともに目を合わせられず、怒っているのかどうかさえ分からないくらいだ。
――でも、嘘をついたところで仕方がないので、俺は素直に告げることとした。
ただし、聖樹の情報についてはいくつか伏せておく。
今のところは俺のことを知らないみたいだけど、もしかしたらそれはポーズだけで、本当は捉えるために足を運んだという懸念もあったからだ。
「は、はい。あのふたりは俺のことをそう思っているようです」
「人間ではないようだが……妖精か?」
「は、はい。聖樹の妖精です」
「妖精か……初めて見たな」
これについてはジェファーズ様だけでなく、周りの騎士たちもざわついていた。
「あれ? この人たちは?」
「だ~れ?」
俺のもとへたどり着いたウィラとシャーニーは、突然現れた見慣れない人たちに関心を持った――が、相手はこの領地を治める領主と訓練された屈強な騎士たち。すぐにおっかない雰囲気が漂っているのを察して怯え始める。
「む? 怖がらせてしまったか」
ふたりの態度が変わってしまったことが、自分の責任であると感じたジェファーズ様は静かに腰を下ろした。目線を小さなふたりに合わせようという配慮のようだ。
「ジェファーズ様……」
領主というからには、貴族の中でもかなり地位の高い人物であると思われる。そんなジェファーズ様が、小さな女の子のためにそんな心遣いができるなんて……コーベットさんみたいだな。
「悪かったね、お嬢さんたち。怖がらせるつもりはなかったんだ」
ジェファーズ様は優しく声をかける。
怖がって俺のズボンにしがみついていたウィラだが、その声と柔和な微笑みを目の当たりにして少し警戒心が緩んだようだ。
「ほ、本当……?」
「もちろんだ。私はこの大きな木に興味があって、君のお父さんに頼んで案内してもらったんだよ」
そう告げると、ウィラの視線がこちらへと向く。恐らく、「今の話は本当?」と真相を確認するための眼差しだろう。
「そうだよ。こちらの方はこの辺りの領地を治める領主様なんだ。この聖樹が突然領地に現れたから、どんなものなのか確認しに来たんだよ」
「そういうことだったのね~」
ウィラだけでなく、シャーニーもホッと胸を撫で下ろした。
「ふむ……」
そんなふたりの反応を見たジェファーズ様は、顎に手を添えて何やら思案中。それからすぐに、
「この聖樹とやらは……危険だと思うか?」
俺にそんなことを尋ねてきた。
「……正直に言いますと、分かりません」
それに対し、俺も嘘偽りなく本心を語る。
神父様がどうしてこれを処分しようとしていたのか、その理由についてはまったく見当もつかないが……とりあえず、現状では特に害を与えるものでないと俺は判断している。それ以外については何も分からないのだ。
「本当に正直だな、君は」
少し呆れの混じったような笑みを浮かべた後、
「だが、そこが気に入った」
「えっ?」
ジェファーズ様はそう口にする。
「この聖樹の管理は君に任せよう」
「い、いいんですか、俺なんかで」
「あの子たちの――妖精から信頼をされているのだ。だから、私は信頼に値すると判断した」
「ジェファーズ様……」
その言葉が、胸に響いた。
同時に――これでますますリガンの町へは行きづらくなってしまった。
「ルディくん」
「は、はい!」
「この聖樹について、もっと詳しい話が聞きたい。悪いのだが、迎えを寄越すから明日の午後にうちの屋敷へ来てくれないか?」
「わ、分かりました」
急遽決まった、ジェファーズ様との話し合い。
……そこで、俺はこれまでの経緯を伝えようと決めた。
なんとか、今の事態を改善したい。
そのためにも、ジェファーズ様には正直にすべてを話そう。
そうしなければ、きっと前へは進めない。
ここまで大事になったら、みんなに黙って村を去るなんてマネもできないしね。
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