第15話 その名は聖樹

 ウィラの様子が大きく変わった時、俺のすぐ近くで誰かの声が聞こえた。

 これまでに聞いたことがない、女の子の声。


 ――って、あれ?

 ちょっと待てよ。

 確か、シェルフィスの村にはローナ以外に若者はいなかったはず。あれだけウィラを熱心に可愛がっていた様子からも、それがうかがえる。


 じゃあ、今聞こえてきた声って……


「主様~、こっちですよ~」

「えっ?」


 今度は明らかに、俺へ向けられた言葉だった。

 それに反応して振り返ると、そこには信じられない光景が。


「こんばんは」

「――えっ?」


 女の子はいた――が、その姿は俺の想像していたものとはかけ離れていた。

 その身長はわずか数十センチ。

 背中からは蝶のような羽が生えていて、それを羽ばたかせることで宙に浮いていた。

 それらの情報をまとめると、


「き、君は……」

「私はシャーニー。あの子――じゃなくて、あなたがウィラと名付けた子と同じく、聖樹とともに生まれた妖精よ」

「シャーニー……妖精……聖樹……」


 次から次へと新しい情報が積み重なっていく。

 

「えっと……ひとつひとつ解決していきたいんだけど――」

「ルディ!? その子誰!?」


 あー……何ひとつ理解が追いついていない状況だけど、ローナに見つかってしまったことでさらにややこしい事態となってしまった。


「あ、ああ、ローナ?」

「えっ? 天使? その子って天使?」

「残念だけど、天使じゃないよ。私は妖精」

「妖精!? 凄い!!」


 ローナのテンションが下がるどころかさらに上昇。

 これだけ騒がしくしていれば、当然、他の村人にも見つかってしまう。何事だとみんなが集まり始めた時、妖精シャーニーはようやく自身の役割を思い出したようだった。


「そうそう! こんなことをしている場合じゃなかった! あの子はどこ?」

「あっ!?」


 初めて見る妖精に、すっかり意識が持っていかれてしまっていたが、本来は調子を崩したウィラをどうしようかと慌てふためいていたのだった。それはどうも、妖精シャーニーにとっても同じようで、


「あの子は聖樹から離れすぎてしまったから、そろそろ魔力不足になるんじゃないかと思って駆けつけたの!」

「魔力不足だって?」


 あの調子の崩し方は普通じゃないと思っていたが……なるほど。あれは魔力不足による体調不良だったのか。その魔力というのは、あの聖樹と呼ばれる存在から離れると供給されないようだ。


「なら、急いで船を出さないと!」

「ま、待ってろ! すぐに用意する!」


 ルパートさんと数人の村人は、大慌てで船の準備に取りかかる。その間、顔色が悪くなっているウィラをローナは懸命に励ましていた。俺もそれに加わろうとする――が、その前に、


「シャーニー、もうひとつ答えてもらいたいことがある」

「何?」

「俺が主って……どういうことだ?」


 実は密かにずっと気になっていたことだった。


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