第7話 シェルフィスでの夜
シェルフィスの村の人たちは、俺のために宴会を開いてくれた。
王都でも宴会とまではいかないが、教会の人たちが中心になってこういった会食の場を設けてくれたな。俺たちがこの町で暮らしていけるようにという意味が込められた、いろんな人たちとの交流を目的とした食事会だ。
「どうしたの?」
ジュースの入ったグラスを片手に、近くにあった岩へ腰を下ろし、盛り上がっている村の大人たちを眺めていると、俺を助けてくれたローナがやってきた。
「もしかして……こういうの嫌いだった?」
「まさか。ちょっと思い出していただけだよ」
「思い出す?」
「うん。――前に住んでいた町のこと」
今は戻れない、ルフェーブル王国の王都。
神父様たちを殺した凶悪犯ということになっているため、今戻ると再び監獄送りとなってしまう。
……だから、コーベットさんが現れてくれたのは本当に救いだった。あとは、あの方がリガンという町に用意してくれている隠れ家へ向けて再出発するだけだ。
そのためには地図がいる。
どこかで調達できればいいのだけど。
「前の町に……嫌な思い出でもあるの?」
「えっ?」
今後のことを考えていたら、ローナが心配そうにそう尋ねてきた。
「そういうわけじゃないよ」
今頃、王都では俺がいなくなったって大騒ぎになっているだろうな。
話では、コーベットさんの他にも、グリニスさんたちが俺の無実を証明しようとしてくれているらしいけど……もしかしたら、手配書がばらまかれているかもしれない。だとしたら、ここでのんびりしている時間はない。早朝にもここを出て行かないと。
「……ねぇ、ルディ。いいところへ連れて行ってあげる」
「えっ?」
「ほら、立って」
俺はローナに腕を引っ張られて、立ち上がる。そのまま手を引かれて森の中へと入っていった。
「ちょ、ちょっと」
「大丈夫だから。任せてよ」
月明かりが照らす森の中を力強い足取りで進んで行くローナ……本当に大丈夫か?
心配になってきた頃、ようやくローナの足が止まる。
そして、こちらを振り返ると前方を指さしてこう言った。
「あそこが私のお気に入りの場所なの」
「お気に入りの場所?」
こんな森の中に――と、思ったが、よく見ると前方に光が。どうやら、あそこから先は木々のない開けた空間となっているらしい。
さらに進んでみると、
「わあっ!」
その光景に、思わず驚きの声が漏れる。
目の前に広がるのは巨大な湖。
圧倒的な大きさに目を奪われていたが、よく見ると前方にはその湖の中心へ続くように伸びる道があった。
「あの道の先まで行って、湖を眺めるのが好きなの」
「た、確かに……湖の全貌が一望できるしね」
「お父さんには危険だからあまり行くなって言われているんだけど……ちょっと悲しいこととかがあった日は、ここへ来るんだ」
「ローナ……」
悲しいことがあった時――ローナは、さっきの会話で俺の心中を察し、励ますためにここへ連れてきてくれたのか。
「こんなことしかできなくて申し訳ないんだけど……」
「……いや、ありがとう。ローナのおかげでいろいろと吹っ切れたよ」
それは偽りのない本心だ。
ローナは「それならよかった」と言ってこちらに背を向ける。その間に、俺はポケットから例の麻袋を取りだした。
『それを……処分……してくれ……』
力尽きる直前にこいつを俺に託した神父様……随分と遠回りになったけど、この湖の底に沈んでしまえば、きっと誰にも見つかないだろう。
俺は麻袋を取りだすと、最後に中身を確認する。
「えっ? なんだ、これ?」
それは、木の根のように見えた。
これを処分してくれって……一体、これは何なのだろう。
……まあ、それはどうだっていい。
間違いなく、神父様は俺にこいつの処分を依頼したのだ。ならば、それに応えなければいけないと思った。
俺は取りだしたそいつを再び麻袋へ入れると、重石として足元に落ちている石を一緒に詰め込んでから湖へと放り投げる。
湖面に映しだされた月が波紋で乱れる中、麻袋が浮かんでこないことを確認した後でローナと合流するため駆けだした。
さあ、目指すはリガンの町だ。
※次回は明日の21:00に投稿予定!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます