第20話【幕間】新たな事実

 ルディが湖に現れた巨大樹木に触れ、妖精たちと交流を深めている中――ルフェーブル王国では新たな動きがあった。


 騎士団詰め所。

 ここでは、今日もルディの無罪を訴える者たちが集まっていた。


「頼むよ、話を聞いてくれ!」

「本当にルディが犯人なのか!」

「現場を見たわけじゃないんだろ!」


 詰めかけた人々の質問に、騎士たちは誰ひとりとして答えない。というより、答えるなという箝口令が敷かれていたのだ。

 もちろん、そんなことで人々が納得するはずがなく、真実を知りたいと集まっていた。一方、ルディを幼い頃から知っており、騎士団に所属しているグリニスは苦しい思いを抱えていた。


 自分自身も、幼い頃からお世話になっている町の人たちに真実を伝えたい――その気持ちはあるが、騎士である自分にも、事件の詳しい内容は伝わってこない。仮に知っていたとしても、箝口令があるため、人々に教えることはできないのだが。


「…………」

「まあ、そう落ち込むな」


 詰め所の中にある窓から、町の人々の様子を見て俯いていたグリニスに声をかける人物がいた。


「バリス分団長……」


 グリニスが顔をあげると、そこにはチョビ髭の中年男性が立っていた。彼の名はバリスと言い、グリニスが所属する分団のトップである。彼女がまだ幼い頃からその高い剣術の資質を見抜き、学園へ推薦した人物である。


「今回の件だがなぁ……ちょっとキナ臭い点が多い」

「!? じゃ、じゃあ!?」

「落ち着け。だからと言って、あの少年が無罪だと決まったわけじゃない」

「うっ……」

「おまえさんが気張ってやらなくちゃいけないだろ? あの子の姉なら」

「私が……そうですよね。私、お姉ちゃんですから!」


 バリスのひと言がきっかけで、グリニスの中で何かが弾けた。


「早速いろいろと調べてみますね!」

「おうよ。あっ、くれぐれもお偉いさん方には見つかるなよ」

「はい!」


 さっきまでの落ち込みが嘘のような晴れ晴れとして笑顔で、グリニスは詰め所をあとにした。


「さて、どうなるかねぇ……」


 バリスはその様子を優しげな笑みで見送るのだった。




 同時刻。

 現場となった教会に、コーベットの姿があった。

 だが、その表情は怒りに満ちている。

 理由はひとつ――


「どういうことだ!」


 教会の中にあるはずの物がなかったのだ。


「金庫の中にあるという情報だったな」

「は、はい……」


 側近の男は震えながら答える。


「なら、どうしてその金庫にアレがないんだ!?」

「そ、それは……あの神父が直前になって持ち出したのでは、と……」

「持ち出しただと?」

「付近を探知魔法で探しましたが見つからず……」

「ならどこに――待てよ」


 ここで、コーベットはあることに気がつくと勢いよく振り返る。そこには、現場でルディを取り押さえた騎士たちがいた。


「おまえたちが拘束したあの小僧だが……身体検査は行ったか?」

「えっ? そ、それは……」

「しなかったんだな?」

「も、申し訳ありません! 少年を捕まえたら、ただちに牢獄へぶち込めという命令でしたので――」

「ちっ!」


 コーベットは再び側近の男を呼び寄せると、


「いいか! あの小僧を襲わせた場所を徹底的に調べ上げろ! 魔力探知を行えば、アレがどこにあるか分かるはずだ。――いや、分かるまで探し続けろ!」

「は、ははっ!」


 そう命じた。


「必ず見つけてやるぞ……」


 コーベットの執念は炎となり、ルディたちへと迫る。

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