第4話 始まる逃亡劇

 コーベットさんの言った通り、塔の裏手には馬車が待機していた。

 御者も事情を知っているらしく、俺を見つけると小声で「こちらです」と手招きをして教えてくれた。

俺は周囲に気を配りながら、俺は馬車の荷台へと潜り込む。

 馬車は屋根付きだったため、外部から見られることはない。さらに、コーベットさんの言葉通り、荷台には服や食料があった。着替えを終え、腹ごしらえをすると眠気が襲ってきた。ずっと緊張状態が続いていたところに、安心してご飯を食べられたという安堵感が重なったせいだろうか。

 ともかく、これで助かる。

 その安心感で満たされていた。


 重さを増す、まぶたの動きに抵抗できず、俺は深い眠りの底へと落ちていった。



  ◇◇◇



 ガタン!


「っ!?」


 深い睡眠から俺を引っ張りだしたのは、馬車を襲った強烈な震動だった。


「な、なんだ!?」


 一気に眠気が覚めたと同時に、馬車が動きを止めた。目的地についたのかと思い、外へ出ようとしたが、馬車の外から聞こえる怒号でその行動をとどめる。


「おらぁ! 命が惜しかったらさっさと失せな!」

「ひいっ!?」


 荷台から少しだけ顔を出して外の様子をうかがうと、十人以上の男たちが馬車を取り囲み、リーダー格と思われる男が御者を脅していた。


「まさか……野盗か?」


 最悪だ。

 このタイミングで馬車が襲われるなんて。

 辺りを見回してみると、どうやら山中のようで、家屋などは一切見られない。

 そうこうしているうちに、御者は逃げ出し、俺は馬車の荷台に取り残される形となってしまった。



「まずいぞ……どうする……」


 このままではじきに見つかってしまう。

 こうなったら一か八か、一般人のふりをして誤魔化そう。

 そう作戦を立てたのだが、


「頭ぁ! きっと例のガキは荷台ですぜ!」


 手下のひとりがそう叫んだ。

 例のガキ?

 それって……どう考えても俺のことだよな?

 どうして俺が荷台にいると知っているんだ!?


「よし! 探しだして殺せ!」


 その言葉に、俺の思考は一気に停止。

 リーダー格の男は躊躇なく殺すという言葉を使った。

 本気だ。

 あいつらは、本気で俺を殺す気なんだ。


「くそっ!」


 俺は半ばやけくそになり、馬車から飛び出した。


「! いたぞ! 逃がすな!」


 その声を引き金に、野盗たちが一斉に俺を追いかけてくる。無我夢中で走り続け、どこかに身を隠せる場所はないか必死に探しながら逃げ惑う。

 だが、野党たちとの距離はジワジワと縮んでいた。

 

 もうダメだ――そう思った時、視線の先に光が見えた。

 薄暗い森の中を走り続けた俺にとって、それはまさに希望の光。

 森を抜けたら、きっとそこには村があるはず。

 もちろん、絶対にそうとは言い切れないが、今の俺にすがれるものはそれしかなかったのだ。

最後の力を振り絞って、なんとか光の先へと向かう。

あと少しで追いつかれるというところで、俺はようやく光を超えた。


「――えっ?」


 まず襲ってきたのは浮遊感だった。

 直後、物凄いスピードで落下していく。


 光の先にあったのは崖だったと気づいたのは、着水する直前だった。


「がはっ!?」


 落ちた先は渓谷を流れる川だった。

 しかも、ここ数日の雨が原因で増水しており、流れがかなり速い。俺を追って何人かの野盗も飛び込んだが、皆、自分が溺れないように泳ぐのに精いっぱいのようだ。


「がぼっ! ぶはっ!」


 なんとか水面から顔を出そうともがくが、先ほどまでの全力疾走ですでに体力は尽き欠けており、溺れるのは時間の問題だった。


 くそ。

 せっかく助かったと思ったのに……こんな仕打ちなんて。

 悔しさが頭の中を埋めていき、やがて俺は意識を手放した。






※次回は明日の12:00に投稿予定!

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