第10話 謎の樹木の正体は?

 湖のど真ん中に突如現れた巨大な樹木。

 それは、俺が投げ捨てたあの根っこが関係しているのか……その真相を――確かめられるかどうか分からないけど、とにかく何かヒントでもいいから欲しくて、俺はルパートさんたちとともに船で近づいた。

 俺たち以外にも、合計で十隻の船が巨大樹木へと近づく。

村人たちは成人男性を中心に二十人近くとなっていた。


「近くで見ると凄い迫力だな」

「え、えぇ……」


 ルパートさんの言う通り、接近してみると改めてその大きさに圧倒される。王都のシンボルでもあった時計塔よりも大きいんじゃないか?


「しかし……近づいても大丈夫か?」


 俺たちと同じ船に乗る村人のひとりが不安を口にする。

 ……その気持ちは分かる。

 大きさもそうなんだが、気配というかオーラというか……もっと言ってしまえば、この世のものではない、神々しさのようなものさえ感じてしまう。だから、迂闊に近づくと神罰が下る気がするのだ。そんな気持ちを抱いているのは俺だけかと思ったが、他の村人たちも同じらしい。


 だからといって、このまま放置しておくというのも不安だ。

 あの樹木からは魔力を感じる――すなわち、何か特殊な効果を秘めている可能性が高いと言えた。

 ……まあ、ひと晩であれだけの大きさに成長する樹木なんだ。

 変な秘密のひとつやふたつ持っていても、なんら不思議じゃない。


「さて、どうしたものか……」


 ルパートさんはこれ以上近づくことをためらっていた。

 それは他の村人たちも同様で、皆あの巨大樹木に接近できず、その場をうろうろとしているだけだ。


 ――けど、それでは何も解決しない。

 もっと近づいて、詳しく調査しなければ。


 不思議と、俺はあの樹木に脅威を感じなくなっていた。むしろもっと近い……親近感のような気持ちが湧いてきている。


 俺は知りたかった。

 なぜこのような気持ちになるのか。

 あの木に直接触れたら……なんだかそれが分かる気がした。


「……ルパートさん」

「どうした?」

「もっと近づけませんか?」

「えっ? だ、だが――」

「大丈夫ですよ。あの木は……大丈夫です」

「だ、大丈夫って……」


 根拠など何ひとつない。

ただ憶測――いや、それすら届かない。

俺の胸中に浮かび上がる「きっと大丈夫」という感覚だけで話している――のだが、きっとその通りになるだろうという確信があった。


 最初は悩んでいたルパートさんも、俺があまりにも自信満々に言うものだから、最後には「分かった。君を信じるよ」と告げて船を動かしてくれた。


 少しずつ、巨大樹木に近づいていく俺たち。

 すると、その全容がよりハッキリと見えてきた。


「こ、これは……」


 まず驚いたのは、その「根」だ。

 太く、そして大量の根が入り組んでいる。見えはしないが、恐らくこの根は湖底に張りついているのだろう。でなければ、この大きな木を支えきることは難しい。


「驚いた……まさかこれほどとは……」

「え、えぇ」


 俺とルパートさんは、もはや開いた口がふさがらなかった。

 とりあえず、上陸できそうな場所に船をつけ、俺たちはこの樹木の根にあがってみることにした。


 きっと、そうすれば新しい発見があるはず。

 そんな予感にかられた俺は、根に近づくとすぐさま船から飛び降りて、そっと手を触れてみる。


 すると――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る