第11話 上陸
突如湖に現れた謎の巨大樹木。
船で近づくと、その近くは大きくて太い根が複雑に入り組んでいる。まるで天然の迷路だな。
俺とルパートさんは根に近づくと、船を横付けして上陸を試みた。
「行きます」
「だ、大丈夫か?」
「沈みそうになったらお願いしますね」
「お、おう」
慎重に船から足を下ろして根の上に立つ。
意外としっかりとしていて、普通に地面の上に足をつけているのと感覚的には変わらない。そんな俺の様子を見てから、ルパートさんも上陸。強度を確かめるよう、強めに足踏みをしてみるがビクともしない。
「思ったより頑丈だな」
「えぇ」
「ふむ……よし。ちょっとここで待っていてくれ」
「えっ?」
「他の連中を呼んで、辺りを散策してみる」
「分かりました」
ルパートさんは村人たちを呼びに一旦船へと戻る。
その場に残った俺は周囲をキョロキョロと見渡しながら、変わったところがないかチェックして回す。
「改めて見ると……凄い迫力だ」
近くで見ると、よりその大きさに圧倒される。
息を呑むっていうのは、まさに今のような状況を言うんだろうな。
成人男性複数人が横に並んで歩けるだけの幅に、ちょっとやそっとのことでは微動だにしないほどの強度――それは樹木というより、ひとつの島って感じがする。
少し離れた位置では、ルパートさんが船に乗り、大声で叫びながら村人たちに安全を知らせている。
――と、
「うん?」
誰かに呼ばれた気がして振り返るが、そこには何もない。
あるのは例の巨大樹木。
……って、まさか、
「おまえが呼んだのか?」
あるわけがないと思いつつ、尋ねてみる。
――と、その時、頭上にある木の枝が風もないのに揺れ始めた。まるで、俺の質問に対して「そうだ」と言わんばかりに。
「えっ? ホントに?」
思わず引きつった笑みがこぼれる。
俺の声に応えたっていうのか?
しかし、そんなことが……
「もしかして……」
目には見えない力に引っ張られ、俺は樹木の幹へと近づいていく。それが正しい行動だと思った。もっと言えば、そうしなければならないと感じていたのだ。
「…………」
一歩、また一歩、俺は樹木へと近づいていく。
やがて、幹のすぐ目の前までやってきた。
一夜にして育ったわりに、まるで何百年もその場にいたと錯覚させるほど、その肌には年季の象徴とも言えるシワが刻み込まれていた。
俺は自然と手が伸びた。
そして、木の幹に触れる――その直後、全身に強力な魔力が走った。
「ぐあっ!?」
その驚きに、俺は思わず手を放して尻もちをつく。
「い、今のって……」
俺は一瞬だけ触れた右の掌に視線を落とす。
触れた瞬間に感じた、強力な魔力。
正体を知りたくて、俺は再び手を伸ばした――と、
「どこにいるんだ、ルディ!」
遠くから、俺の名を叫ぶルパートさんの声がする。
そういえば、結構遠くまで来てしまったな。
一度戻ろうと踵を返した時、俺は自分の足がまったく動かないことに気づく。
「えっ?」
驚いて下を向くと、俺の足に無数の木の根が絡まっていた。
「な、なんだ、これ!?」
驚く俺を尻目に、木の根はやがて全身を包み込み、そのまま幹の方へと引きずり込んでいく。
しまった!
モンスターの類か!
抵抗を試みるが、もう遅い。
俺の体は樹木の中へと取り込まれていくのだった。
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