第12話 巨大樹木の正体

 ズブズブと、体の樹木の中へと引きずり込まれていく。

 力いっぱい抵抗しようにも、俺の力だけではどうすることもできず、結局そのまま樹木の内部へと放り込まれた。


「ぐあっ!?」


 全身が包み込まれた直後、体中に巻きついていた根から解き放たれる。急に自由を取り戻したことで少し混乱したが、落ち着いて深呼吸を挟み、冷静さを取り戻すことに成功した。


「ここは……」


 巨大樹木の腹の中――とでも言えばいいのか。

 ポッカリと開いた薄暗い空間に、たったひとりだけ……なんか、収まりかけていた不安がまた襲ってきたぞ。


 しかし、辺りを見回してみた限り、外へつながる出入口は見当たらない。武器があったり、魔法が使えたりしたら、ここから出る手段なんていくらでもあるのにな。


 さて……樹木に飲み込まれた瞬間は死を覚悟したが……こうして生き残ることができた――というより、最初から俺を殺す気なんてなかったんじゃないかって思う。樹木に感情なんてあるとは思えないが、いわゆる殺意というようなものを感じなかったのだ。


 なら、この樹木はなんのために俺をここへ連れてきたのか。

 疑問を抱いていると、ふとあることに気がつく。


「うん? あれは……」


 何もないと思われていた樹木内部の空間。

 だが、それは薄暗いから見えづらかっただけで、実際は端っこの方にイスが置いてあることに気づく。さらに、


「えっ!?」


 ある事実に気づいて、思わず声が漏れた。

 空間の端っこにあったイスには――誰かが座っている。

 この場所に人が?

 一体誰なんだ?

 もしかして……というか、ほぼ確実に、あそこにいる人がこの樹木の出現に大きくかかわっていると思われる。


 気がつくと、俺は駆けだしていた。

 俺の推察が正しければ、神父様が俺にあの種を処分するよう頼んだ理由が分かるかもしれない。もっと言えば、神父様やシスターたちが殺された理由にも近づけるかも――そんな考えに支配され、走り続けた俺の足は急に止まった。


 そこに誰が座っているのか、まったく想像できない。

 だから、どんな人がいても驚くことはない。

 そう思っていたが……まったくもって予想外すぎる人物だ。


「お、女の子……?」


 イスに座っていたのは、緑色の長い髪をした小さな女の子だ。

 年齢は五、六歳くらいか。

 目を閉じて、なんの反応も示さないが……呼吸はしている。死んではいないようだ。


「お、おい、君」


 声をかけるが、応答なし。

 それでも、この子がここから脱出する方法を知っているかもしれない唯一の手掛かりである可能性が高い。


 俺は必死に彼女を起こそうとした。

 このままここに居続けるわけにはいかない。

 ……また、以前のような生活に戻りたかった。

 だから、コーベットさんが真犯人を捕まえてくれるまでは身を隠していなければならない。そういう意味では、ここはいい条件と言えるかもしれないが、出られないとなったら話は別だ。


 なんとかして出たい。

 その一心で声をかけ続けていると、


「……ふえ?」


 ついに、女の子が目を覚ました。

 ――と、同時に、



「あっ! パパだ!」



 とんでもないことを言いだした。

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