第13話 謎の女の子

「パパ~」


 金色の瞳が、ジッとこちらを見つめている。


「パ、パパ……?」


 ダメもとで辺りを見回してみるが……当然、誰もいない。

 やっぱり、この子が言っているパパというのは――俺のことか?


「あ、あの」

「なぁに?」

「お、俺が君のパパ?」

「うん! 私のパパ!」


 ダメだ。

 屈託のない笑顔を向けられてそう断言されてしまっては、何も言い返せなくなってしまう。

……けど、落ち着け。

ここで怯むわけにはいかないだろ。

 ただでさえ訳が分からない状況だというのに、女の子と付き合ったことさえないのにいきなり子持ちになってしまうのだ。グリニスさんにはよく「いつまで経っても彼女ができないならお姉ちゃんがもらってあげるからね」とからかわれていたけど……その過程を吹っ飛ばして子どもができたなんて言ったら、きっと卒倒するぞ。


 ――って、余計なことを考えている場合じゃない。


「あ、あの、よく聞いてほしいんだけど」

「どうしたの?」

「俺はきっと君のパパじゃないよ」

「そんなことないよ!」


 これまたキッパリと言われてしまった。


「ど、どうしてそう言い切れるんだ? 俺は今日初めて君に会うのに」

「パパの魔力が私の体に宿っているから!」

「魔力……?」


 そこで、俺はハッとなる。

 ――そう。

 神父様が俺に処分を依頼した、あの麻袋に入っていた種。

 もしかして……あれか?

 あの種から生まれたのがこの子で、巨大な樹木は彼女を守るためのゆりかご?


「お、おいおいおい……」


 サーッと血の気が引いていくのが分かる。

 俺は……とんでもないことをしでかしてしまったのではないか?

 

「パパ~」


 こちらの心境を知ってか知らずか、女の子は俺の足にしがみつくとスリスリと頬ずりを始める。その仕草は可愛らしいんだけど……正直なところ、どう対処していいのか分からない。


 そもそも、本当の両親のことを知らない俺が、いきなり子育てとか無理だろ。

 確かに、神父様やシスターたちは愛情深く俺に接してくれたが……俺が同じようにできるのか不安だ。ていうか、やっぱりこういうのはきちんとした施設で経験のある人に任せるべきだろう。


 だったら、この子も一緒に王都へ連れて行こう。

 神父様はいなくなってしまったけど、熱心に寄付をし続けてくれたコーベットさんならば、教会の存続に動いてくれるはず。


 そうと決まったら、この子を連れてリガンの町を目指そう。 

 もしかしたら、すでに俺の無実は証明されているかもしれないし。

 ――が、ここで、


「って、そうだ。ここから出られないんだった」


 肝心な問題を思い出した――が、


「パパ、お外に出たいの?」

「ああ。とりあえず、ルパートさんたちに無事だってことを伝えたいし」

「だったら――えい」


 女の子は俺の足から離れると、魔力の錬成を始めた。

 驚くべきはその凄まじい魔力量。

 魔法使いではない俺でも、それが桁違いのものであることはすぐに分かった。


「き、君は……」


 その続きを口にする前に樹木が大きくうねりだし、外へ通じる出口を生みだした。すると、


「おい! こっちから中へ入れるみたいだぞ!」


 ルパートさんの叫び声がする。

 どうやら無事に合流できそうだが、


「いい天気だね、パパ!」


 この子を一体どうするべきか……新たな問題が生まれてしまった。

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