第2話 無実の罪
「はあ、はあ、はあ……」
息が苦しい。
むせかえるような臭気で呼吸もままならなかった。
「なんで……」
何度もそう呟く。
すぐに誤解を解けて、俺は解放されるはずだった。
こんなのきっとすぐに笑い話となって語られると思っていた。
それがまさか……こんなことになるなんて。
あれから、俺は王都の外にある塔へと連れてこられ、両手足を鎖につながれるとほとんど動けない状態のまま一夜を牢屋の中で過ごした。
朝食もとらせてもらえない中、王家の使いと名乗る人物が面会にやってきた。
その人の話によると、今、王都では凄惨な事件を起こした俺に対してどのような対応を取っていくのか、議会を開いて協議を行っている最中であると告げられた。
本来であれば、事件の内容からして即刻処刑が言い渡されるはずが、それについては難航しているという。
理由は、普段からお世話になっている王都の人々の証言。
「ルディが父親代わりになって育ててくれた神父様やシスターたちを殺すとは到底思えない」と擁護してくれたのだ。
その一方で、「今までの彼の人格がいかに素晴らしくても、それは見せかけだけかもしれない」という意見もあったが、現状としては擁護派の方が圧倒的に人数も多く、優勢だとも教えてくれた。
近いうちに結論を出すとのことだったが、今のところは再調査が行われる可能性が高いという。しかし、それも断言できるものではなく、状況次第でどうなるか分からないとも付け加えられた。
真っ暗に閉ざされかけた俺の未来は、わずかだがしっかりとした光に支えられているようだ。
「…………」
牢屋越しでの面会が終わった後、俺はずっとズボンのポケットを眺めていた。
神父様が最後に「処分してほしい」と託した謎の麻袋。
現在、俺は拘束されているため、その中身を確認することはできないが……なぜか、これについて証言するのをためらった。
牢獄にいる間はやることがないので、どうしても事件について考えてしまうのだが……間違いなく、こいつが原因で神父様たちは殺されたのだろう。
しかし、現場に犯人の姿はなく、肝心のモノは神父様自身が持っていた。恐らく、何か予兆を感じたのか、神父様は普段隠している場所からこいつを移動させ、肌身離さず持ち歩いていたのだろう。
するとその時、こちらへ近づいて来る足音が。
「今度は……誰だ?」
俺はわずかに顔を上げて来客を待つ。
しばらくして現れたのは――男性だった。
整った身なりに、警護と思われる屈強な大男をふたり連れていることから、恐らく名のある一族の出だろうか。
「初めまして……で、いいかな?」
神妙な面持ちでそう言った若い男性。
年齢は二十代半ばほど。
でもこの人……どこかで見たことがあるような。
「自己紹介の必要はないと思うが、一応礼儀として――私はアルムウェル家の次男でコーベット・アルムウェルという者だ」
「アルムウェル……」
思い出した。
アルムウェル家は国内でも屈指の名家だ。
そのアルムウェル家の次男だというコーベットさんは慈善活動に熱心で、俺やグリニスさんが幼い頃に過ごした教会への支援も、彼のひと声で決まったという。
俺は直接の面識こそないが、彼が教会を支援しているという話は神父様から何度か聞かされたことがあった。
「今日ここへ来たのは――」
コーベットさんはそこで後ろにいた護衛ふたりに目配せをする。それを受けた男たちは散歩ほど下がり、周囲を警戒している様子。
……なんだろう。
なんだか嫌な予感がする。
警護ふたりが離れたことを確認したコーベットさんは牢に近づき、小声で俺にある事実を教えてくれた。
「落ち着いて聞いてくれ――君は明日、処刑される」
……は?
※次は17:00に投稿予定!
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