第22話 領主登場
牢獄から抜け出した俺の居場所をキャッチして、領主が捕らえに来たのか。
それとも本当にただの視察なのか。
どのみち、俺に逃げ場はないのだ。
だとしたら、真相を確かめるべく腹をくくろう。
ちなみに、余計な混乱を招かないよう、ウィラやシャーニーたちには聖樹で待機しているように告げておいた。
ルパートさんの船に乗り込み、村へと戻る――と、そこには大勢の武装した兵士たちが待ち構えていた。
「うっ……」
思わず、そんな声が漏れる。
こうなってくると、全員が俺を捕えるために並んでいるのではないかと思えてきてしまう。
そんな大勢の兵士たちに守れる形でたたずむ、恰幅の良い初老の男性――恐らく、身なりからしてこの人が領主様なのだろう。
鋭い眼光に、刻み込まれた眉間のシワ……まるで百戦錬磨の武人のような面構えをしている。この人、ただの貴族ってわけじゃなさそうだ。
「この地方を治めているジェファーズ家の当主様で、アルフレド・ジェファーズ様よ」
困惑している俺に、ローナが耳打ちで情報をくれた。
「は、はじめまして、ルディと言います」
本名を名乗ることに抵抗はあったが、すでに村人たちには知られているので、変えてしまっては怪しまれると思い、そのまま口にする。
「ルディ……」
領主のジェファーズ様はそう言うと、何かを思案するように顎に手を添える。
そして、
「あそこにあるバカデカい木だが……あれはなんだ?」
回りくどい言い方をせず、最短距離で答えに迫ろうという質問だった。それに対し、俺も素直に返答する。
「あれは聖樹と呼ばれるものだそうです」
「聖樹……やはりそうか」
俺はギクッと体を強張らせる。
ジェファーズ様は、聖樹の名を聞いても特に驚いた様子は見せない。むしろ、その口ぶりから察するに、あれが聖樹ではないかと事前に予想しているようだった。――つまり、ジェファーズ様は聖樹の存在を知っていたのだ。
なぜ知っているのか。
誰かに聞いたか、書物を読んだか――いずれにせよ、俺のことを知っている可能性はグッと高まった。
今にも倒れそうなほどの緊張感を抱きつつ、ジェファーズ様の言葉を待っていると、
「もっと近くで見てみたいな。――案内してくれるか?」
「えっ?」
あまりにも意外な言葉に、俺はしばらく放心状態となった。
すると、
「も、もちろんでございます! すぐに船のご用意をいたしますね!」
ルパートさんが変わって答えてくれた。
それから、村の人たちを集め始め、再びあの聖樹へ向かうための準備に取りかかる。
「…………」
未だに全身を緊張感が包み込み、うまく言葉が発せられないくらいガチガチとなっているが……どうやら、俺を捕まえに来たというわけではなく、本当に聖樹の調査にやってきたらしい。
でも、まだ油断はできない。
間違いなく、俺が脱走した件は伝わっているはずだし……でも、それなら名前で反応をしなかったのはなぜだろう?
多くの疑問を残す中、俺たちは領主であるジェファーズ様とともに再び聖樹へと戻っていった。
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