第8話

「それじゃあ、現状の確認をするデス!」


 それはアークスターとスターライト隊が地上へ帰還、キャリアダックと合流した翌日の事だった。


 ダンジョンから出た時はもう日も暮れて、簡単な報告だけ済ませたマリア達は久しぶりの温かい食事と熱いシャワー、そしてコックピットシートに比べれば快適なベッドで早々に休むことにした。なのでアークとは簡単な挨拶しか交わしておらず、そしてアークもこのキャリアダックとスターライト隊について殆ど何も知らない状態だったのだ。


「確認って言いますけど……まずはどこからです?」


「んー、まずはそれぞれの自己紹介でもやるデス? アークはまだマリア達の名前と顔くらいしか分からないはずデスし」


 一同は先生に呼ばれ、キャリアダックの食堂に集まっていた。食堂、とはいうものの、六人も座れば少々狭く感じる程度の部屋だ。陸上母艦とはいえ、居住スペースは限られている。


「なまえとー、かおとー! あとニオイも覚えたー! 遠くからでもわかるー!」


「ぢょ゛っ゛! 乙女に向かってニオイとかやめてよ! 私はきちんと清潔にしてますからね?!」


「……アマネや、アークはたぶん、犬とか熊並みの嗅覚してるから風呂入った程度じゃ無駄な努力だと思うデスよ。アーク、みんなに自己紹介をするデス」


「あいあーい! オレはアーク! すきなごはんはニク! よろしくー!」


「アークはグランヴァール大森林でおじいさんと二人で暮らしてたんです。だから、その……なんていうか一般常識だとか、社会通念がきちんと理解できてないタイプのアホの子なんです。みなさん、アークが変なことをしたらキツく叱ってくださいね。これも躾ですから」


「しつけー? アマネーはしつこいー?」


「アンタは大人しくしてなさい! ……それで、もう知ってると思いますがプロトスター改め、アークスターのパイロットとなりました。今後、一緒に作戦行動へ組み込まれると思うので、よろしくお願いします。ほら、アークも頭さげなさい!」


「んー! おがいしますー! アークスターでがんばるー!」


「あはは、面白いね。アークくん、だっけ? 改めて初めまして。私はマリア・ロマノフ。このスターライト部隊の隊長さ」


 にこやかに微笑みながら挨拶をするマリア。アークは年相応の体格と身長ではあるが、マリアはそれよりもさらに長身をしており、スラリとした体型はまるでモデルか女優を思わせるほどだ。明るめの銀髪をショートカットにしており、その口調や雰囲気、そしてやや中性的な顔立ちから男性のみならず女性からの人気も高そうなのが窺える。


「そしてこっちがヨウラン、それからレイチェルだ。二人共、泣く子も黙るエースパイロットさ」


「ちっ……アタシがヨウラン。リー・ヨウランだ」


「私がレイチェル・ウッドよ~! よろしくね、アーク君!」


「マリア! ヨウラン! レイチェルー! おぼえたー!」


 ヨウランは黒髪ポニーテールの少し小柄な、それでいて快活そうな女性だ。アークに向けている視線が何故かキツく、生来のやや吊り目と相まって敵意むき出しを隠そうとしていない。


 そしてレイチェルは淡いピンクの肩まで伸ばした髪をゆるふわウェーブにし、どこかほわほわした性格と喋り方をしている女性だ。しかし肉食獣を思わせるような素早い動きを見せたかと思うと、アークも反応できない間に彼の手をがっしりと握りしめた。


「おいレイチェル、なにやってんだオマエ」


「何って……アーク君の前腕屈筋群と伸筋群のを確かめてるのよ。これは素晴らしいわ……」


 レイチェルはいつの間にかアークの前腕をペタペタ触り、その感触を確かめている。アークはどう反応して良いのか分からず、ポカンと口を開けたままだ。


「あー……すまんデスけど、レイチェルはこういうちょっと筋肉に関してはなやつなんデス。病気なんデス。ま、私の顔に免じて許してやってくれデス」


「んー、よくわからないけど、ゆるすー!」


 レイチェルの視線はアークのすらりとした上腕からしっかりとした肩、そして適度に盛り上がった大胸筋へと移っていく。傍からみれば鼻息も荒く完全に不審者の目つきだが、当のアークはいつのもニコニコ顔でやっぱりよく分かっていないようだ。


「さて、アーク。次は我々の所属について説明するデス。アークはメラトゥス共和国って知ってるデスか?」


「んーん! しらないー!」


「デスよねー……とにかく、私たちはその共和国の人間デス。地図で言えば……ほれ、ここデス」


 バサリと広げたテーブルサイズの大きな地図、そこには三角形のような大きな大陸が一つと、その周囲に小さな島がいくつか描かれていた。先生の細い指が指しているのは大陸の下部、三角形の頂点左側を中心とした国だ。


「くにー?」


「国っていうのはね、沢山の人たちが住んでるひろーい土地の事よ」


「アマネ、たくさんって、じゅう10にんくらいー?」


「もっとよ、もっと。数え切れないくらい多いのよ」


「すごーい!」


 手の指を十本、ワキワキさせて驚くアーク。彼は十より多い数はまだ分からないらしく、こうやってアマネも噛み砕いて説明してやるのだ。


「話が進まないデス……えっと、それで私達の所属はメラトゥス共和国軍中央司令軍中央技術開発本部中央戦術研究所第三研究室、中央が3つと第三研究室から通称C3シースリーと呼ばれてるデス」


「正式名称がめっちゃ覚えにくいやつな」


「うっさいデス、ヨウラン! ゴホン、そしてその主な任務は次世代ヴァルクアーマー開発計画、対外的にはスター計画と呼ばれるプロジェクトを推進しているのデスよ」


 先生らが所属している中央司令軍とやらは通常の軍務とはやや異なる性質を持っているらしく、街の治安維持であったり重要人物や施設の警護なども請け負っているらしい。そして各地の地方軍を管理・運営のほか、巨大人型兵器たるヴァルクアーマーの開発や生産計画などもここが主導しているのだ。


「そして私の手足家来でもあるスターライト部隊! マリアをはじめ、各VA部隊から優秀なパイロットを抽出して組織された超エリート部隊なんデス! まぁ実際は癖が超つよつよ部隊なんデスが」


「ねぇ、家来って言ってるように聞こえたんだけど~?」


「やれやれ、個性的な先生に比べたら私達なんて道端の小石も同然なんですけどね?」


「それはレイチェルの空耳デス。それからどういう意味デス、マリア? ……とにかく、スターライト隊の目的は大きく二つあるデス」


「デバイスー! デバイスをさがすー!」


「そうデス、アークの言う通り、古代文明のデバイスを探すのも我々の任務の一つデスね」




「ところでよ、話に水を差すようだが……結局アークは何者なんだ? ただの野生児じゃねえんだよな?」


 前髪を退屈そうに弄るヨウランは、しかしその瞳を注意深くアークに向けたまま先生に問いかける。


「そういえば、誰にも起動できなかったプロト……アークスターを動かせるのよね~? だからヨウラン、彼に嫉妬しちゃってるのね」


「んなっ……?! ち、ちげぇよバカ!」


「ふむ。それは私も気になっていた所だ。そこの所も話してくれますよね、先生?」

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