第6話

「いえーい! アークスターさんじょー!」


 突如として乱入してきた深紅のヴァルクアーマー、アークスター。攻撃態勢に入っていた手負いのオーガー級を一撃で吹き飛ばし、デバイスから得られる本来の出力100%を発揮出来ているようだ。


「なっ……プロトスター?! なんでが動いてるんだよ?! っていうか誰だテメー?!」


「んー? オレはアーク! よろしくねー!」


 戦闘中であるにも関わらず、アークスターは手を振ってヨウランに応える。しかし、その間にも手負いのオーガー級は体勢を立て直し、猛然と襲いかかってきていた。


「ちょっと、挨拶は後よ! 今はコイツをどうにかしなきゃ!」


 そう叫ぶレイチェルは咄嗟にスナイパーライフルを構えるが、そのトリガーをすぐに引くことはしなかった。あれだけの攻撃を食らってまだ動けるような魔物だ、いくら正面から撃ち込んでも大した効果は望めないだろうと判断する。


 ならばと、ブラストウルフは猛然と迫りくる悪鬼、その手前に向けて撃ち抜かれた。特別製の榴弾は強化コンクリートの床に小さなくぼみを作り、そしてその位置はちょうどオーガー級が踏み込もうとしている箇所だった。


「ちっ!」


 バランスを崩して転けそうになった魔物に向けて、マリア機が遮二無二ライフルを撃ち込む。大したダメージにはなっていないが、少なくともオーガー級を怯ませる程度にはなったようだ。


『お前ら、無事デスか?! 遅れて悪かったデスけど、そのプロトスター改め、アークスターは味方デス!』


『スターマム、これより皆さんのバックアップに入ります! 各機とのコンタクト確認、機体パラメータ同期!』


「先生、アマネ、遅いですよ……と、呑気に会話している余裕はなさそうだね……!」


 アサルトライフルの銃弾を喰らいつつもオーガー級は体勢を立て直し、右手に握ったメイスを握り直す。


『えっと、戦っているのはオーガー級デスかね? だったらオーク級なんかと同じく胸部回りに動力源や制御装置が集まっているはずなので、そこを集中攻撃すれば倒せるはずなんデスけど』


「……それにしては何か妙だぜ? なんていうか、やたらタフだし、まだ何か隠してるような……」


「ちょっとヨウラン、不気味な事言わないでよ。それよりマリア隊長、ティーガーの魔力残量は大丈夫なんですか?」


 マリアたちの機体はここに来るまで連戦続きだった。そのため機体を動かす燃料とも言える魔力はあまり多く残ってはいないのだ。しかも、マリア機は先程の魔法で著しく魔力を消費してしまったはずだ。


「そうだね……戦闘起動であと10分は保つかな? やれやれ、燃費の悪い機体はいつもこうだよ」


『機体性能を上げるには、どうしても消費魔力も増えてしまうんデス! そこは実用レベルにまできっちりバランス調整してある私の腕を褒める所デスよ!』


「はいはい、先生の改造した機体は凄いですね! いくよ、ヨウラン!」


「おうよ!」


「オレもいくー!」


 マリアのアイシクルティーガー、ヨウランのフラッドウルフ、そしてアークの駆るアークスターが一斉にオーガー級へと強襲をかけた。装甲も厚く、多少の攻撃では怯まないような相手だが、流石に三機を同時に相手して無事ではいられないだろう。


「てめっ! ああクソ! 勝手にコンビネーションに入ってくるんじゃねぇ!」


「えへへー!」


「なんで照れてるんだよ! 調子くるうな?!」


 悪態をつきながらもメイスの一撃を躱し、再びオーガー級の懐に潜り込んだフラッドウルフ。ヨウランはそのまま砕け散った胸部装甲の隙間を狙い、拳を叩き込む。


「君は上を! 私は下だ!」


「あいあーい! うえー!」


 そしてアイシクルティーガーが持っていた直刀で足元を斬りつけ、アークスターは装備していたショートソードを抜き放つ。オーガー級の頭上を宙返りする要領で飛び越しつつ、その僅かな瞬間に白刃が煌めかせた。


「グルアァァ!」


 頭部、胸部、脚部への同時攻撃。それぞれのダメージは小さいものの、三機の即席コンビネーションは完璧だった。斬られた頭のキズを押さえつつ、憤怒の形相を浮かべていることからも攻撃は十分に通っている。


「時間は掛かるけど、少しずつ削っていくしかないわね。マリア隊長、そこの……えっと、アークスター? に前衛を任せては?」


「おいおい、こんな得体の知れないやつを組み込むのかよ!」


「レイチェルの言う通りだ。ここは確実な方法を」


「……やばいのがくる! みんな、よけてー!」


 アークの鼻がぴくんと動き、何かを感じ取った。咄嗟の一言だったが、マリア達も熟練のパイロット、頭で理解するより先に機体は反応していた。


 そして、ヴァルクアーマー各機が回避運動をする直前までいた空間に一筋の光が放たれた。激しい紫電のような光線は空気を焼き、強化コンクリート製の壁に着弾する。その壁は一瞬にして赤熱し、周囲にヒビ割れを作りつつ溶融した成分がドロリと重力に引かれだす。


「……な、なんだよアレ!」


「強力なビーム兵器……のようだね」


「ちょっと、オーガー級がビーム兵器持ってるなんて聞いたことないですよ?!」


 オーガー級の周囲が陽炎のようにゆらめく。手に持っているのはメイスのみ、躯体のどこにも砲身のようなものは無くどういう原理かは不明だが、確かにこの魔物はビームを放ったのだ。


「びーむ? びーむ……あれがビーム……」


『えっ?! オーガー級がビーム兵器を使用したって事デスか? ふぅむ、それはなかなか興味深いデスね……マリア! その魔物、なるべく破壊せずに倒すデスよ! 研究材料にしちゃるデス!』


「ははは、先生も無茶を言いますね。頭の片隅に留めておきますよ」


 マリアは涼しげに言うが、内心ではこの魔物とどう戦うか決めあぐねていた。元々オーガー級は接近戦に特化した魔物だ。いざとなれば遠距離から少しずつダメージを与えるという戦法も取れるのだが、ビーム兵器を搭載しているとなると話は変わってくる。


「気を付けろよ、レイチェル……ビームの直撃なんて喰らったら、アタシらのカスタム・ウルフじゃ一撃でやられちまう」


「そっちこそ、ただでさえ装甲が薄いんだから……って!」


 ヨウラン達が攻めあぐねているその横をすり抜ける深紅の機体。アークスターは素早い動きでオーガー級へと取り付いた。


「おい待てコラ! 迂闊に近づくと危ねぇだろ!」


「こいつのビームは次にうてるまで、じかんかかるよ!」


 アークはどこにそんな確証があるのか、しかし確かにオーガー級は先程の数発しかビームを使用していない。彼はそれを直感的に理解しているという事だろうか。


『アークの推察は正しいかもしれないデス。本来、ビーム兵器を搭載している魔物は専用の動力源を持っているデスし、そのオーガー級の出力では一度使うとチャージに時間が掛かっても不思議ではないのデスよ』


『アーク、気を付けて! そのオーガー級の内部でエネルギー反応が高まってる、次のビームがくるわ!』


「わかった、アマネー!」


 オーガー級はその恐ろしい顔をさらに歪ませ、手にしたメイスを振り下ろす。紙一重でアークスターは開披するも、強化コンクリートの地面を容易く砕く一撃は驚嘆に値する。ビームも警戒すべきだが、このパワーも油断ならない要素だ。


「んー……?」


 メイスの一撃で生じた隙。しかしアークはオーガー級に肉薄しているだけで、攻撃に転じようとはしない。


「お、おい。アイツ何やってんだ? 折角のチャンスによ」


「何かを観察……しているようだね?」


 大振りなメイスを器用に躱していくアークスター。まるで何かを待っているかのようだ。と、オーガー級の眼が爛々と光り始め、周囲の大気がにわかに歪みだした。


「グル……ァァァ!」


「不味いわ、チャージ完了したのかも!」


 レイチェルは咄嗟にトリガーを引く。オーガー級の気を逸し、アークスターへの攻撃を防ごうとするも殆ど効果が無いようだ。


『アーク、逃げて!』


「んー、ちょっと待ってアマネー。やっぱりここかな?」


 これがビームの発射口なのか、オーガー級の左右に濃紫を纏った球が現れた。しかし、アークスターはそんな事にも構わずオーガー級の懐へと潜り込む。


「そうか、あれだけ接近してれば奴はビームを撃てねぇ!」


「……いや、ヨウラン。彼には別の目的があるようだよ?」


 肉薄したアークスターは、ビーム発射の為に一瞬だけ無防備となったオーガー級の胸へと腕を伸ばす。そして、大きな穴の空いた胸部装甲の中、何かを掴み取った。


「グルゥウァァ!」


 一拍遅れてオーガー級がその大きな手でアークスターを掴みかかる。しかしもう遅く、アークスターは何かの部品を手に、華麗なバック宙でその場から退避していたのだ。


 そしてアークスターが手にした部品は、アークの首に下げているあのキートップと同じ光沢を放っていた。


「やーっぱり! これ、デバイスー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る