幕間

「アークとー!」


「アマネのー」


「「ワクワク! ドキドキ! クッキングー!」」


「おい突然何が始まったんデス?」


「えーと、このばんぐみはー」


「良い子のお料理を応援する教育番組です。本日は特別講師として、この方にお越し頂きました」


「おう! アタシがシナイ料理の達人、ヨウランだ!」


「わー! タツジンー!」


「ヨウランがなんか胡散臭い格好で登場してきたデス……」


「アタシ達シナイ民族に伝わるシナイ料理は400万年の歴史があると言われてるっぽいからな! ビシビシ教育的指導するぜ! 弱音は聞かねぇ!」


「なんて荒っぽい料理人なんデス。というか400万年前って現世人類ホモサピがまだ存在してないのではデス」


「えー、今日の食材は」


「オレがもりでとってきたトリにくー!」


「はいコチラ、やけに極彩色でカラフルで見てるだけで目が痛くなるような鳥を捌いた新鮮なお肉です。命を頂くって、大変なことなのよね……」


「キュってくびをしめるんだよー!」


「トリ肉ってなんの肉デス?」


「今日の献立は特製ダレを使ったカラアゲだ! よし、そのトリ肉に下味をしっかりと付けていくぜ。まずは醤油、料理酒、生姜、黒胡椒、それから大蒜! これらをたっぷり肉に揉み込むのがコツだ!」


「もみもみ……よくもむー!」


「はいこちらー、よく揉み込んで30分寝かせたものです」


「そうしたら次は衣だな。小麦粉と片栗粉を等量にしたものをまぶし、余計な粉は軽く叩いて落とす。さっくりした食感にしたい時は片栗粉の割合を多くするといいぞ」


「さくさく、ざくざくー!」


「細かく砕いた煎餅や落花生を衣にしても美味いぞ。さて、この間に油の準備だ。揚げ物用鍋に油を張りよく熱する。200℃の高温にするから火傷に注意しろよ!」


「あっちー!」


「おお、なんかまともな料理番組っぽくなってきたデス……」


「油温の確認は菜箸を油の中に入れて、大きめの泡が勢いよく出るのが目安ですねー」


「そしたら衣を付けた肉を投入だ! このとき、一度に大量に入れず、少量ずつ揚げると高温を維持しやすくなるぜ!」


「あっつーい!」


「今回は二度揚げというやり方でいくぜ。衣の色が狐色に変わったら一度油から取り出し、少し火を弱めてだいたい160℃まで油温を下げる。そしたら再び肉を揚げるんだ」


「油温の目安は菜箸をさっきと同じように油へ入れて、ふつふつと泡が立つくらいが目安です」


「二度揚げが終わったら少し肉を休ませるぜ。この時に余分な油が落ちるよう、金網なんかを使ってもいいぜ。よし、ここからがシナイ料理の本番、特製ピリ辛ダレの作り方に入るぜ!」


「うぉぉん、この時点で既に美味そうじゃないかデス!」


「材料はこちら。ペヌヌンペの実、マッカラソーの葉、キリヌルを乾燥させたものになります」


「よし、ペヌヌンペの実はウルシュして、マッカラソーとキルヌルはリリンするぜ! これらを混ぜて作ったタレは古い言葉でピョーロと呼ぶそうだ!」


「おうこらちょっと待てやデス。いきなりオリジナルファンタジー要素をぶっ込んでくるなデス。視聴者全員置いてけぼりデスよ。きっとSNSで百家争鳴の論争を繰り広げた挙句の炎上間違いなしデス」


「わー! からそー!」


「お皿に盛り付け、特製ピリ辛ダレをかければ……」


「どうだ! シナイ料理600万年の真髄だぜ!」


「いや、確かに見た目は美味そうデスし、ピリ辛で香ばしい香りも食欲増進デスけど。あともうツッコまないデス」


「からーい! でもうまーい!」


「はーい、今日の献立は特製ピリ辛ダレのカラアゲでしたー。調理法をもう確認されたい方は今月号の1020ページ、またはホームページに掲載されていますよー」


「一体どういう世界観なんデス? 感想欄で叱られが発生するデスよ?」


「アークとー!」


「アマネのー」


「「ワクワク! ドキドキ! クッキングー!」」








「まぁ、確かに美味そうなのは間違いないデスね……ほんじゃま、一口……はむっ、デス」


 先生はこんがりと、ほのかに色濃くなった狐色をしたカラアゲをまじまじと観察してから、口いっぱいに頬張る。なるほど、ピリ辛ダレの程よい辛味と甘酸っぱさが口に広がり、鼻に抜ける爽やかな酸味が心地よい。


 一口噛むごとに、サクサク、ザクザクと衣が気持ちの良い食感を奏でる。その奥からは肉汁がこれでもかと溢れ出し、口の中で旨味が弾けるようだ。


 その旨味とピリ辛ダレが混ざりあうと、これまたなんとも言えない妙味に変化し、衣の香ばしさと適度な油分とがさらに混ざり合うことで舌が千変万化の味覚に狂喜するようだ。


「美味いデス! これはいくらでもおかわり出来るデスね! ……ッ?!デス!」


 突如、襲い来る激痛。身体が急に発熱しだし、全身からは滝のように発汗するではないか。


 痛い、痛い、痛い。これまでに経験したことの無い痛みは目の前が真っ赤になったのではないかと錯覚するほど。脳と神経はもはや完全にバグってしまい、この痛覚がどこから来るのかすら定かではない。


「〜〜〜〜〜〜ッッッデス!!!」


 生存本能が水を求める。これはヤバい。死んでしまう。そう、直感が告げるのだ。早く、早く、水を浴びるほどに呑み込み、コレを薄めなければ。


 そうして先生はようやくこの異常の原因に行き着いた。


 口腔内から食道上部、特に舌の周囲。無数に存在するという味覚を感知する味蕾と呼ばれる感覚器官。それらが一斉に『辛い』と訴えかけているのだ。




「からーーーいッッッデス!!!」




「おいアーク、そんなにキリヌルを入れたら辛くて食べられなくなるぜ」


「からーい! でもうまーい!」

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