7
「ご馳走さまでしたー」
「ありがとうねー。またここに来る事があったら気軽に寄ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます!」
美味しい食事と思わぬ情報を得られた満足感と共に、私はホテルへの帰路を歩いた。寒空の中、私は先程聞いた話を含めてまた事件の事を考えていた。
奇妙な話だった。だが故に、また何か繋がりを感じざるを得ない内容でもあった。
――とりあえず、明日御神さんにも報告しよう。
考えるのはまたその時でもいい。
ぞわっ。
「っ!?」
唐突に背中に走った寒気に、勢いよくばっと後ろを振り向いた。
「……何、何よ」
――どういう事。今の。
一気に心拍数が上がった。振り向いた先には誰もいない。だがこの感覚は、つい最近にも感じたものと似ている。という事は、やはりあの時背中に感じた感覚は間違っていなかったという事だ。
途端に恐怖が一気に心を支配していった。今は一人だ。横に御神さんはいない。頼れる存在がいない。
自分に今出来る事は、全速力でホテルに戻る事だけだった。
翌日、私は早速御神さんに昨日あの小料理屋で聞いた事を話した。
「上出来だ。ありがとう」
思えば御神さんに褒められたのは、この時が初めてだった。不覚にも私は心の中でその事を喜んだ。
*
「自殺があったんだよ。あの小学校で」
「自殺?」
おや、と思った。事件、事故という表現なら分かるが、神山君について自殺という見方はさすがにそぐわない。どういう事かと思いながら私は男性の言葉を待った。
「あの小学校には立派な一本木があってね。そこで首を吊った子がいたんだよ」
「え、まさか小学生が首吊り?」
「いやいや、亡くなっていた子は中学生だったんだけどね。小学校の校庭で首吊りなんてそれだけでも大騒ぎだったんだけど。何より不気味だったのは、死んだその子、手首が切り取られていたらしいんだよ」
「手首を……?」
期待していた話とは違ったが、これはまたとんでもない話が飛び出てきた。
「首吊り自殺に見せかけて手首を切り取るとんでもない猟奇殺人、だなんて当時地元では大騒ぎになったんだ。混乱を防ぐためか、なぜだか大きく報道はされなかったし手首の事も表では報道されてなかったけどね」
「あったわねーそんな事。あれだけ騒ぎになったのに、結局どうなったのかってそう言えば覚えてないわね」
女将さんも思い出したのか、一緒に会話に入ってくる。
「確かに自然消滅みたいな感じだったね。犯人も捕まる事なく、結局何だったのかわからない一件だったよ」
言いながら男性はずずっとお猪口に入った酒を傾けた。
私は何も言わず黙るしかなかった。
求めていた情報と違っていた事もそうだが、出てきた話がまたも不可思議で残虐なものだった。
手首を切り取られた首吊り死体。まるで趣味の悪い推理もののような死体。ここまで奇妙な事が重なると、この土地の事すら疑いたくなる気持ちになる。
――ちょっと待てよ。
その時、すっと身体に電流が走るような感覚が襲った。
犠牲者達に残された指紋。大きな謎としてずっと居座り続けていた、死人の手。
“で、この指のサイズってのがな、どう考えても大人のサイズじゃねえんだよ”
白鞘さんの言葉を思い出す。大人でもない。だが子供とも断定出来ない。
とんでもなくオカルトな発想だ。だがもうそれを馬鹿げていると一蹴する思考は消えている。
この中学生の手が関係しているなら、ずっと進めなかった謎の一つが解けるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます