3

「あ、ちょっとすんません電話」




 学校を出たタイミングで自分の携帯が震えた。そこに表示された名前を見て思わず顔をしかめた。




「何すか?」


『えらい態度じゃねえか』




 不機嫌を剝き出しにして私は電話に出たが、全く相手に効果はなかったようだ。電話の主である梅崎先輩の態度こそ、私からすればいつも通り”えらい態度”だ。




『ちっとは現場の苦労が分かったか?』


「何すか? わざわざ嫌味言う為にかけてきたんすか?」


『それもあるが、サボってねえかなと思ってよ』


「ちゃんとやってますよ。っていうか、何なんですかこの事件?」


『なんだ、手こずってんのか?』


「手こずるなんてレベルじゃないですよ! こんなの押し付けてどういうつもりですか!?」


『まあ、今までサボってた罰だと思え』


「サボってなんかない!」


『ほう。じゃあ成果を聞かせろよ』




 苛立ちを感じながら私はこれまでの事を梅崎先輩に話した。改めて自分の口で説明していても意味不明な事件だ。話しながらも全くまとまらないし、結局どういう事なのかまるで分かっていない。さっきまでは前進しているように感じたのに、いざ話すと何も進んでいないようにも思う。




『なるほどな』


「ところで気になってたんですけど、梅崎先輩って御神さんと面識あるんですか?」


『いや、一方的に俺が知っている』


「なんすかそれ。ファンなんですか?」


『似たようなもんだ』


「え、マジで言ってんすか……?」


『そんな事より、お前携帯のGPSつけとけよ』


「はい?」


『おいおい、基本だぞ。誰がどこで何やってんのか把握しとかねえと駄目だろ』


「そうなんすか? 聞いた事ないですけど」


『分かったな』


「はいはい、分かりましたよ」




 そこでぶつりと乱暴に電話は切られた。腹は立ったが、とりあえず言われた通り携帯のGPSだけはつけておいた。




「っとにもう……」


「ひょっとして例の先輩?」


「です。状況はどうだって探り入れてきました」


「そうか。梅崎君だっけ? 僕のファンだとか」


「あ、聞こえてました? よくわかんないですけど、らしいです」


「へぇ。僕の何が彼を射止めたんだろうね」


「ちょっとBL展開とか勘弁してくださいよ。私そういう趣味ないんで」


「なんだいそれ。男にも女にも興味ないから問題ないよ」


「え、女にも?」


「さて、次の行動を決めないと」


「いや、ちょっと御神さんって女の人に興味ないんですか?」


「次は、彼だな」


「全く興味ないんですか!?」


「黙れ」


「……はい」




 私の質問は一撃で粉砕され、事件の事に頭を戻す。茅ヶ崎教頭の話で新たに出たのはまず武市君という生徒。おそらくは次沢達にいじめられていたであろう彼は、目の前で神山君の死を見ている存在の一人だ。そしてもう一人、妹尾恭子という女性教師。


 二人の現在について、茅ヶ崎教頭はあまり情報を持っていなかった。まず武市君は神山君の死以来自宅に引きこもってしまい、その後一度も学校に顔を出すことはなかったそうだ。


妹尾恭子についても長らく連絡をとっておらず、どうしているか分からないという。ただ彼女についても当時この一連の出来事でかなり憔悴してしまい休職をとり、茅ヶ崎教頭が別の学校に移るまでに会う事もなかったという。


 話を聞くとすればまずこの二人か。後は三人の死に方と酷似している神山君についても確認が必要だ、というのが御神さんの考えだった。




 そして私達はまず、武市君について調べる事にした。

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