2
「え、これ御神さんの?」
「そうだよ」
鼻にかけるわけでもなくすっと乗り込んだ車は流線型のスタイリッシュな青のスポーツカーだった。一体いくらするんだろう。ひょっとすると何千万の領域なのではないか?
――もしや御神さん、上玉か?
見た目、収入。ちょっと悪くないんじゃない?
いやしかし、刑事でこれは目立ちすぎだろ。ぐわんと上に開いたドアから助手席へと私も乗り込んだ。
「ちょっとすごいじゃないスか! いくらするんですかこれ?」
「すごいね。何の躊躇いもなくそんな事を聞く神経。尊敬に値する」
「あざっす」
「正式に教えてあげるが、決して褒めてはいないよ」
「え」
「まあいい。とりあえず行こうか」
車はブオンと勢いよく発進した。あまりの勢いに後頭部を私は強かに打ち付けた。
なんだこれ。スポーツカーってこんな乗り心地なのか。カーブを曲がる度にかかるGに吐き気を催す。いやこれ、車種の問題じゃなく御神さんの腕の問題か? 見ると、御神さんは両手でがっちりとハンドルを握っている。安全運転、というより傍目にもガチガチに緊張しているのが分かる。
――運転下手なら買うなよこんな車。
私の中であがりかけた彼への株は一気に暴落した。
*
約三十分後、車はとある建物の前で停止した。
「う、うっぷ……」
「大丈夫かいゆとりくおぇ」
「いや自分も酔ってんのかよ……」
車を降り二人して深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻し、ようやく私は口にした。
「大学病院、ですか?」
「そう。これまで何度もお世話になっている場所だ」
水下みずした大学病院と書かれた施設の中へ私達は足を踏み入れた。御神さんの足取りは一直線に目的地へと向かっているようで私はただただ彼の後ろについて歩いた。
やがて行き着いた部屋には「第一ラボ」と書かれたプレートが掲げられていた。御神さんはノックもせずにドアを開けて中へと入った。
中にいた白衣の男がこちらを見るやいなや快活な笑顔と共にこちらへと近づいてきた。
「おー真ちゃん。早速来たね」
「またお世話になります」
気さくに話しかけて来る白衣の男性に対して御神さんは深々とお辞儀をした。そこには相手に対しての尊敬の深さが感じ取れた。
「この方、検視官の白鞘太一しらさやたいちさんだ」
「なんだえらく若いねえちゃん連れて。ようやくお前も彼女をつくったか」
「違いますよ。彼女はお手伝いです。それに、彼女は若すぎますよ」
ハハハハと白鞘さんは大きく笑った。そういえば御神さんていくつなんだろうか? 見た目は若いけど実は結構いってるのだろうか?
白鞘太一という検視官に改めて目を向ける。失礼ながら、第一印象は胡散臭いだ。白衣こそ来ているものの、短髪で無駄にがたいのいい筋肉質な身体。浅黒く日焼けした肌、笑った口元から覗くびっかびかの白色の歯。検視官というよりチャラついた中年サーファー、もしくはよく分からない事業に手を付けている実業家、何をしてるか分からないが何だかやり手っぽい社長という感じだ。
「彼女は安部刑事。まだ新人で現場にも出たことのないゆとり君ですが、今回の事件の手伝いをしてもらっています」
「へぇ、使えそうかい?」
「まったく」
「ハッハッハ! 全然ダメじゃねえか」
とんでもなく不快なやり取りが聞こえるが口を挟んだ所で更に不快な言葉が飛んできそうなので黙って堪えた。
「じゃあ、早速ですけどお願いできますか」
改まって御神さんが言うと、先程までのチャラついた笑顔をすっと白鞘さんは引っ込めた。どうやらオンオフの切り替えはきっちりするタイプらしい。
「よし行こうか。しかしありゃ……」
「どうかしましたか?」
「いや……。まあ行きゃ分かる」
引っかかる物言いを残した白鞘さんの後に私たちは続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます