五章 氷と鬼

鬼の魂

 どういう事だ? 


 一体何がどうなってる?


 突然の事で頭の中がぐちゃぐちゃだった。




 ――さっきまで、自分は確か。




 一秒前の同じ場所、同じ空間に自分もいるはずなのに。見えている景色は全く先程のものと異なっている。




 さっきまで目の前で泣いていたあいつの顔がない。今は何故かあいつの顔を見下ろしている。




 なんだよ。なんだよこれ。


 どうなってんだよ。




『急げ』




 その時、ふいに声がした。


 どこからだ? 周りを見てもその存在を確認出来ない。


 でも確かに聞こえた。もう一度見下ろす。




 ――そういう、事なのか……?




『急げ』




 再び声がした。声の意味を理解し始めた。そういう事なら、確かに急がなければならない。




 ――でも、でもそれは……。




 時間がない。だがそれは確実に大きなモノを捨てる事になる。どちらを選ぶにせよ。




 ――くそ、くそっ……。




 頭を全力で働かせる。どちらを選んでも納得は出来ない。




 でも、決めた。




 この瞬間に、自分の生きる道を決めた。あまりにも大きな、通常ではあり得ない大きな決断だという事を、その後ずっと噛み締めながら生きる事も知らずに。

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