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「例の指紋は?」


「ああ、今回もついてるぞ」




 白鞘さんの部屋で三人目の遺体についての話を聞いた。


 死んだのは畑山怜美はたやまれみという女性で、彼女は発見時狭い路地の上で何かに驚いたような顔をしたまま固まっていたそうだ。そして死体の右頬には前回と同じ死人の手の痕跡が残されていた。




「同一犯だな。相変わらずお陀仏野郎みたいだが、全くどうなってやがんだ。妙な死体はいくつも見てきたが、こんなのは初めてだ。で、捜査の方はどうなんだ?」


「順調、ではないですね」


「だろうな」


「一つ聞きたいのですが、彼女の出身はどこですか?」


「出身?」




 白鞘さんは書類をぺらりと捲った。おそらく畑山のプロフィールだろう。




「新潟だな……ん? そういや」




 そこで白鞘さんも何かに思い当たったようだ。




「それが今縋りつける唯一のヒントかもしれません」


「なるほど」




 御神さんは、この事件の根底は単純かもしれないと口にしていた。


 次沢兼人、内原直樹、そして今回の畑山怜美。全員が新潟の出身だった。現時点で鍵となり得る唯一の情報だ。これが事件の根底と関わるものであれば、なるほど確かに繋がりは単純かもしれない。




「まあそっちを調べんのはお前らの仕事だ。俺は俺の仕事の結果を伝えよう。三人の正確な死に方についてだ」


「死因は窒息死でしたよね」


「そうだ。じゃあどうやって窒息死に至ったか。三人の身体に同様に起きている事は、何らかのきっかけで全身の筋肉が凄まじいスピードで一瞬にして固められたって事だ」


「筋肉が固められた?」


「ああ。死後硬直で身体が固まったんじゃなく、先に筋肉が硬直して死んだって順番だ。つまり筋肉の自由が奪われ、その結果呼吸する筋力も奪われ窒息死に至ったんだ」


「……それを一体どうやったのかですね」


「筋肉を硬直させる薬物もあるにはあるだろうが、スピードが比じゃねえ。薬物でこんな殺し方は無理だ」


「そうですか……」


「後、これを言ってなかったな。死人の情報が先行して俺も伝え忘れていたんだが」


「何ですか?」


「死人の手についてなんだが……ちと小せえんだよ」


「小さい?」


「ああ。今回の死体もそうなんだが、これまでの遺体についても死人の手の指紋の残り方は、手の平でべったりと触れたんじゃなく、五本の指先だけで触れたような指紋の残り方なんだ。で、この指のサイズってのがな、どう考えても大人のサイズじゃねえんだよ」


「子供の指、という事ですか?」


「少なくとも、大人じゃねえな」


「んー……」




 御神さんは深く唸った。常にスマートさを崩さない彼にしては珍しい反応だった。




「ありがとうございます。かなり参考になりました」


「おう。頑張れよ」




 新たに判明した事もあった。繋がりも見えてきた。だが、解決にはおそらくまだほど遠いようだった。

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