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勘弁してくれ。やっと頭がまとまりかけていたのだ。なのに、こんなのナシでしょ?
御神さんも頭に手をやり難しそうに顔を歪めた。
「同情するつもりはないが、確かにこんな案件が回ってきたら相当頭を悩ませるだろうな」
悩むどころじゃない。悩んで出る答えだとも到底思えない。
「この未解決事件のツケはあまりにも大きすぎるね」
絶望に心が沈みそうだった。もう無理だ。こんなの分かるわけがない。ここまで頑張ってきたが、結局一番謎であった死人の犯行にまた話が戻ってきた。
武市君は死にながら自分の腕を切り落とした。そんな芸当が可能なら、本当にこの事件は全て死人が起こしているかもしれない。死んだ武市君の肉体が彷徨い、三人を殺していった。これじゃまるでゾンビ映画じゃないか。
「そういえば、妹尾先生についても少し分かった事がある」
今更妹尾の事が分かったとて何になるんだ、そんな自棄な気持ちになりつつあったがまだ調べられていない大事な人物の一人である事に間違いはない。
「茅ヶ崎教頭から連絡があってね。彼なりに動いてくれたようだ。彼女が今どこにいるのか調べてくれたらしい。彼女は今千葉にいる」
「千葉?」
話によると、どうやら神山君が死んだ後、茅ヶ崎教頭はすぐに他の学校へ異動になった。これはもともと決まっていた事で特にこの一件が関係しているわけじゃなかったそうだが、妹尾先生はその後少し猪下に残ったが、やはり精神が優れなかったようで教職を一旦離れたそうだ。それから関東に移り少し期間が空いてから採用試験を経てまた教師を続けた。そして茅ヶ崎教頭が知り得た彼女の最後の情報は千葉の中学校に赴任したという一年前の情報までだ。ちなみに妹尾先生は結婚していたが、旦那は病気で既に他界しているらしい。
妹尾先生は関東にいる。今まで彼女の事をあまり事件の輪の中に置いていなかったが、現実的に考えれば三人を殺すのにはエリア的に問題ない。ここに来て現実的な観点で事件に臨む事が方向性として正しいのかは分からないが、決して無視してはいけない人物ではある。
妹尾先生についての情報を得ながら、私達は最後の一人三原英治の実家を訪れた。しかし残念ながら住所の場所にあった一軒家の表札はまるで違う苗字だった。駄目元でインターホンを鳴らした。出てきた住人は三十過ぎのごく普通の女性で、残念ながら三原君の情報は何も得られなかった。
時間がない。私達は可能性のある場所に片っ端から連絡を入れた。すぐにめぼしい情報は得られなかったが、しばらくして武市君が進学した中学でもある猪下南中学の男性事務員から連絡が返ってきた。
そこで分かった事は、三原英治は中学二年の時に家庭の事情で関東の学校に転校したそうだ。事務員に礼を言い、転校先の学校に連絡を入れ彼について尋ねた。応対した職員は確認次第また連絡をすると言って通話を終えた。
非常にせわしない状況だったが、合わせてもう一つ確認しなければならなかったのが神山君だ。神山君という生徒がどういう人物だったか。突然の死を迎える事になってしまった彼の印象はやんちゃで明るく頭も良いという、今でいう陽キャと呼ばれそうな評判の高い生徒だったようだ。
誰にでもちょっかいをかけたがる性格で、それはクラスメイトだけではなく担任の妹尾先生に対してもそうだったらしく、彼女をよく困らせていたらしい。そんな彼にとって武市君はお気に入りだったようで、一緒にいる事も多かったそうだ。
現状分かった事はここまで。後は三原英治の事について連絡待ちだ。
「新潟にいるのも今日で最後になるかな」
三原英治の所在次第な所もあるが、妹尾先生が関東にいる事を考えれば、一度戻らねばならないだろう。
私達は最後になるであろう新潟の夜をまたあの小料理屋で過ごした。状況は切迫しているし、早急に確認しなければならない事もまだ多い。だが今この一時だけは平和だった。
だが、翌朝思わぬ事態が起きた。
「一つ、やるべき事が増えてしまった」
御神さんの声は固かった。尋常ならざる事が起きてしまった事は明らかだった。
まさか、既に三原が?
そう思ったが、聞かされた内容は全く予想外のものだった。
「豊さんが、自宅で首を吊ったそうだ」
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