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「両親の離婚があり梅崎姓となった彼は、その後刑事となりました。今私の横にいる彼女の先輩にあたる人物でした。あの夜公園であなたと会う前、彼は彼女にあなたの最後の犯行を示唆する連絡を入れてきました。あの時点で、いやそもそもこの事件は、最後に自分自身があなたに殺される所までが計画されたものだったんでしょう」
「殺される事を分かった上で?」
「三原栄治は、武市君をイジメていたメンバーに含まれていた。あなたと武市君にとっては、自分は殺さなければならない存在だと、そう思っていたのかもしれません。」
あの公園での彼の発言は全て、自分が主犯であると私達に伝えているようなものだった。自分自身も最後に殺される。究極の自己犠牲とも呼べるその行為もまた一つの償いだったのだろうか。
“先生、ごめんなさい”
最後に彼女へ向けたあの言葉には、そういった意味が含まれていたのか。
「つまり今回の事件を要約すれば、過去に武市君をイジメていた事に対しての償いを持つ生徒、そして武市君を救えなかった事を悔やみ続けていた教師の償い。二つの償いが掛け合わされた事によって起きた」
武市君のイジメに関わっていた人間は全て死んだ。二人の償いは完遂した。そして私達は負けた。私達は、彼らを止める事が出来なかった。
「さて、これが事件の全てです……と、言いたい所ですが、残念ながらそうはいきません。これではまだ、事件の解決に至っていません」
危うく私も納得しかけた。だがそうだ。まだ残っている謎がある。一見今の推理は筋の通った説明にも聞こえるが、それは残った謎を除外して話したからに過ぎない。この事件はそんなに単純なものではないのだ。
「次沢、内原、畑山、三原。四人の死については今の説明で合っているはずです。しかし事件の最中、もう一つ無視出来ない死が発生しました。それが武市君の父親、豊さんの死です」
豊さんの死はあまりにも不自然だった。タイミングもおかしい。私達の見解は、彼の死も今回の事件に関係しているというものだった。
だが、豊さんを殺したのは妹尾ではない。そもそも彼の死は自殺と断定されているのだ。息子と同じ首吊りによって。
「豊さんは検死の結果首吊り自殺だと断定されています。が、前日に会った私達には彼が自殺をするような様子には見えませんでした。あのタイミングで死ぬ理由も分かりません。しかも偶然か、息子の昌彦君と同じ首吊りという死に方です。これまで事件を追ってきた私達には、とてもじゃないが偶然とは思えなかった。そして何より、彼が自殺をしたとは考えにくいのです。彼は最後の一人である三原栄治の事を指摘した。昌彦君の事に関して父親である彼は次沢達に対して憎しみを抱いていました。彼らが死んだ事に対して当然の天罰だと口にした。ならば、もし仮に自殺するにしても三原栄治が死んでからでもいいはずです」
そこまでは分かる。だからこそ豊さんが自殺ではないという事も。だが、どうやって。自殺に見せかけて豊さんを殺したのか。
「いくらあがいても私達はあなたに負けました。いや、正確に言えば敗北は二度目です。全てはもっと早い段階で起きていた」
御神さんの言っている意味が全く分からない。だがきっとそれは、豊さんの死を解き明かすものだ。
「頑張ったつもりかもしれませんが、慣れない事をするには準備が足りませんでしたか?うまく喋っていたつもりでしょうが、やはりぎこちない。それとも、別にもう全てが終ったからバレてもかまわない、そんな所ですか?」
妹尾恭子は何も言わない。驚くわけでも不審がるわけでもない。ただじっと御神さんの言葉を聞いている。その態度は、御神さんが伝えようとしている事を理解しているように見える。この場において私だけがまた置いてけぼりをくらっている。
「妹尾恭子は実行犯。しかし、いくら人を殺める事の出来る手を持っていたとしても、それだけで殺人という行為を行うにはリスクが高すぎる。それをサポートしたのが手紙の主からの内容です。その人物は次沢達の行動パターンを把握していた。そして的確にあなたに指示を与えていた。ひょっとしたら、妹尾恭子が犯行を行う現場にもその人物はいたのではないか。そして隠れてその場で彼女をサポートしていたのではないか。いくら何でもただの教師である女性に殺人行為を任せるというのは、いささか手引きをした人物からすれば、正直心許ないのではないかと考えるのが自然です」
御神さんが何を言おうとしているのかは分かってきた。
ただ、なんだこの違和感は?
御神さんは今、誰に話しかけているのだろう?
「そして、おそらく全てを指示していたのは三原栄治。さて、そろそろ答え合わせをしましょう。彼が一体何をしてきたか。豊さんはどうやって殺されたか」
負けを認めた時、私は正直がっかりした。あっさりと敗北を認めるような人間だとは思わなかった。
でも、やっぱり違う。御神さんがただで終わるわけがない。
御神さんは解いていたんだ。ちゃんと全てを。
「それを説明する為には、あなたにちゃんと出てきてもらわなければいけません。今のあなたではダメです」
背筋がぞわついた。ここまで散々おかしな事が起き続けた。事件が終わった今、もうこれ以上の事は起きないと思っていた。
違う。私はまだ何も分かっていない。この世界を。
私が生きるこの世界は、本当は普通の世界ではないのだ。
「もうバレてますよ? ミハラエイジ君」
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