鬼の傷

 自分というものに慣れた、というより諦めに至ってから幾年もが過ぎていった。何度も腹の底に沈めては沸き立ちを繰り返した憎悪ややるせなさにようやく折り合いをつけれてきた。よく時間が解決してくれるなんて事を言うが、これだけの事が自分の身に置きながらも時が経つ事で感情の揺れは緩やかに、だが確実に穏やかになっていた。




「久しぶりだな、****」




 しかし、あっさりと感情の封は切られた。


 何気ない当たり前の一言。だがその一言は確実にこの世が不平等である事を証明し、その事実は残酷に心を引き裂いた。




 だが、痛みを抱え続けてきたのは自分だけではなかった。


 愕然とした。まさか、あなたがここまで心を蝕まれていたなんて。


 あなたと出会える事を、始めは喜んだ。しかし、あなたと出会って喜びは一瞬で悲しみと怒りに塗りつぶされた。あなたを壊した全ての根源を知った時、もう限界だった。




 無邪気である事がどれだけ残酷だったか。その残酷さを理解していれば、こんな事にはならなかった。




 ――次で、最後だ。




 もう少し、もう少しだけ、待っていてください。

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