番外編
救いの使者
ユリウス視点
◇◇◇
新月の夜、深い時刻まで仕事をし、王城裏に竜を止め、早朝より訓練に出る為、そこで待機をさせた日。
いつになく慌てた様子の竜、グレイヴからの思念に驚き、自室へ戻る足を止め、踵を返した。
王城裏に出ると、グレイヴの前に子供が立っている。
「僕はアルだよ。アルの望みを叶えるのが僕の使命さ。だから竜騎士になるよ」
「それはどういうことかな?」
ここは王城だ。どこよりも固い警備体制が敷かれている。なのに王城奥深くに潜り込める子供? 最初は魔物を疑った。強い力を持つ魔物の中には人型を取るものもいる。
“案ずるな、これに敵意はない”
グレイヴの思念を聞き、とりあえず警戒は解くが、これは何だ?
子供と距離を取りながら、グレイヴに触れる。触れた方がグレイヴの感情をより強く感じられる。
「この竜の契約者? 僕はアルだよ」
「俺はユリウス・ローデンシュタイン、この竜の相棒で、竜騎士の長を賜っている」
子供に近づけば、その容姿に見覚えがある。しかもアルと名乗られたら、過去の記憶が蘇って来る。
“この者は何だ? 俺の知り合いの姿をしているが、髪と目の色が違う。それに過去の記憶のまま成長をしていないぞ”
グレイヴに思念を飛ばす。
アルと名乗る子と会話をしながら、思念でグレイヴと話した。
“これは人の言葉を借りれば、神のようなものだ”
“神だと?”
“万物の創造主であり、全てを司る者だが、厄介なことに、その者は4兄弟の末の子だ。この世が安定せぬのも、こ奴のワガママのせいだと聞く”
“神がワガママだと?”
“そうだ、でなければ、こんな場所に現れぬだろう”
確かにそうだ。しかも竜騎士になりたいとはどういうことだ? この者の言うことが確かならば、アルとしての生を終えるまで、できる限り願いを聞かなければならない。
“これは幸運を運ぶ者とも言われる存在だ。逃せば二度と出会えぬ。怒りをかえば全てを失う危険はあるが。おまえは日々退屈なのだろう? 少しは退屈が晴れるのではないか?”
グレイヴの言う幸運と逃すなが強く記憶に残る。
アルはとても弱く、オドオドした可哀想な子だった。それなのにこの子はどうだ。見目は同じなのに、発する雰囲気がまるで違う。
輝く赤い虹彩は、強い意志が見え、夜の闇の中でさえ、美しく輝いて見える。銀の髪は柔らかそうで、触れてみたくなる。
“この者の普段も子供の姿なのか?”
グレイヴにそう聞くと、笑う気配を見せた。
“神だぞ。それは美しい姿に決まっている。竜を司るのは三番目の神だが、美しいものが好物の竜が魅了されるほどだ”
赤い虹彩、美しい銀の髪を持つ美しい青年となる者。その想像だけで気持ちが逸る。
アルとして俺の前に現れたのは、きっと深い因縁があるからだ。でもまだ告げぬ。彼の真意を近い距離で見守り、見極めて行く。
「人を害する気はないのか? 見たところは普通の子供だが、どうにも信用できん」
「うん、大丈夫、僕はアルだよ。アルが人として死ぬまで、僕はアルだよ」
アルだというこの者の側にあり、この者の願いを叶える手伝いをする。
そしていつか、彼の真の姿を見られたら、それこそが幸せなのではないだろうか。
喰ってやる代わりに願いを叶える約束をしたら思ったより面倒なんだけどどうしよう? くまざき @jiyang118
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