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  僕の家に戻って来て、広い浴室に連れ込む。アルの姿だった時は、ユリウスに全部任せていて、膝の上で湯船に浸かったけど。


 一緒にシャワーを浴びて、対等な位置関係に嬉しくなる。


 僕専用のハチミツ入りシャンプーとコンディショナーを使って髪を洗い、手洗い専用のボディソープで体を洗う。ユーリをあわあわにして洗うの、楽しい。同じ匂いになるのも嬉しい。


 湯船はユリウスの所の庭にある石の浴槽とは違うけど、それなりに広いから一緒に入れる。ここはまぁ、あえてユーリの膝の間に入って、ユーリの足に腕を乗せて、快適かな。


 洗って結わえた髪が邪魔で、ユーリの胸にもたれられないのはちょっと不満だけど。


 バスローブを着せて、寝室に行く。

 天蓋付きのベッドの縁を囲む薄いレースのカーテンを開き、柔らかいベッドにユーリを座らせた。


 僕はそこ前に立つ。じーっと見つめて来るユーリを見てる。


「この家の中ではいつも通り、対等で良いよ」


 腕を組んで、何でも聞いてのポーズを取るけど、内心はワクワクしてる。だってこんなの初めてだよ? 僕の家に、僕らとは違う、ただの人がいる。僕のユーリが。


「いつ喰う?」


 なるほど、そうか。


「いつ喰われたい?」


「すぐにでも」


 ユーリは喰われることを望んでいるけど、僕は今すぐ喰う気はない。自分の生にも、その他の何においても執着が無く、あるのは僕に喰われる願いだけなんて、僕にとったら都合が良く、しかも見目も性格も好みときたら、飽きるまで側に置こうと思うよ。


「理由を聞いていなかったね」


 僕に喰われて消えたいっていう願いの真実はなに?


「——復讐を果たした時、本当はそこで終わりたいと思っていた。でもそれ以上に生きた意味は、アルに出会う為だったのだと思えた。——あの国での俺の未来は俺の望むものではなかった。だが逃げられない。好きでもない女と子をつくり育てる恐怖に怯えてもいた。——ヨシカに会って、グレイヴにヨシカの存在を教えられ、アルを喰ったと聞き、俺には救いだと思った。——ヨシカは俺の救いで、俺の最愛の相手だ。喰って欲しいと思うくらい、愛している」


 ああ、ユーリ。僕の欲しい言葉をくれた。全て僕のものに。だったら僕の全てを明かすよ。


「ユーリ、僕には眷属がいる」


 僕には眷属がいて、僕の擬態にもなる生物がいる。それは白虎で、意思だけで呼び出せる。


 獣の咆哮が部屋に反響する。

 僕の足に巻きつくように白虎の姿が現れる。その美しい毛並みに手を這わせ、何ヶ月ぶりかの手触りを楽しんだ。


「それが人を喰ったのか」


「うん、僕が行動する時は白虎になる。だから壁も飛んで行けるし、早く走れる。魔物も狩れるし、人も喰うよ」


 グルグルと喉を鳴らし、ユーリを睨んでいる。ゆっくり近づいて行って、ユーリのスネの匂いを嗅いでいる。ベッドにぴょいっと上って、ベッドの足元に寝転んだ。


 緊張していたユーリから力が抜ける。喰われたいって言うけど、それは僕にで、僕の眷属ではないのだろう。


「僕に喰われたい?」


 ユーリに近づいて、隣に座り、口付けを強請る距離で見上げる。


「約束だ」


 真剣な眼差しで見返され、その精悍さに見惚れる。


「ユーリはもう僕のものだよ。喰うのは僕の自由でしょ?」


 ユーリをベッドに押し倒し、その膝の上に乗る。


「大人の僕はどう? 誰にも邪魔されない場所でふたりきり」


 ユーリの腹に座って、距離を近づける。唇が触れ合う直前で止める。


「喰うのは後でも、良い?」


 息のかかる距離で、唇を合わせる。

 ユーリの首筋に僕の噛み跡が残っていることに満足して、服を寛げる。


 ユーリが傷む顔をして、僕に荒々しく口付けをする。


 あとは言葉などいらない。

 ふたりでベッドに倒れ込むと、白虎がベッドから飛び降りて、別の部屋へ去って行く。


 子供の体では出来なかったことを、して欲しくて、我慢していたことを、ユーリに求められ、それ以上に翻弄されて——たまらない。


 僕のユーリは僕を上手に愛してくれる。

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