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宰相って地位はどうなの? って散々王に言ったけど、別に何でも良いだろうって取り合って貰えなかった。本当の宰相は別にいるし、僕に役職はいらないと思うし。ユーリの前で言われたから、妙に恥ずかしくて嫌になる。
扉が開いても手を繋いだまま歩いた。
真ん中に敷かれたエンジ色の絨毯の上を歩く。その左右には有力者が並び、視線を下げて敬う姿を取っているが、好奇な視線を感じずにはいられない。でも良い。どうせここでは好き勝手にやってる。
中央をふたりで歩いて、上部へ繋がる階段の前で膝をおる。床に両膝をついて、両手を腹の前で組むのを、ユーリも同じようにしてくれている。俯いて王座を見ないのも弁えている。さすが元竜騎士。他国での振る舞いも心得ていてありがたい。
せっかく連れ帰って来た男だ。他者に侮られるところを見たくはないから。っていうか、特に女性、ほおって熱い息を吐いてる。僕のユーリは良い男だろ? って自慢したくなる。
「帰るの遅くなった、ごめんね、僕の王」
尻を踵に下ろして、王を見上げる。
王座に座した王は、奇麗な青い衣装に身を包み、退屈そうな姿勢で僕を見下ろしている。ユーリは動かず、視線を下げたままだ。
「青い衣装を着せるか」
「うん、ごめんね。許してくれる?」
はあって大きいため息の音が聞こえた。
本物の宰相のため息だ。僕のことを知りながら、でもこの国の王は唯一ですと言い切る男。でもしっかり仕事をしてくれるし、王を気遣える男だから、許すよ。
「青は王の色です」
「知ってる。青は僕の王の色だよ。でもこの色は僕のユーリの色だ」
「良いよ、宰相、いつものことだ」
「王が良いって、ありがとう、僕の王」
ざわっと背後が揺れる。
青を認めるということは、王と近しき存在になるということ。地位に執着している者は面白くないだろう。しかも僕のだ。王のように伴侶を得て、民との繋がりを濃くする存在ではない。
「礼を解いて良い、名は?」
王に言われて、ユーリも踵に尻を下ろし、でも視線は上げずに礼のままで。
「ユーリと申します」
全てを省き、僕の言った通りに名前しか告げなかったユーリのこと、やっぱり豪胆だなって思う。だって普通はさ、王に謁見だよ? 自分を大きく見せたいと思ったり、王に良く思われたいって思うものでしょ? ユーリはいつも僕を満足させてくれる。
「この国での滞在、第二画までの出入りを認める」
そして王も、僕の思惑を汲んでくれる。だから僕の王だと呼んであげる。僕の意を違わず汲んでくれる間は。
ユーリの行動範囲が告げられたところで、背後の人々が苦言を呈す。
第二画は、王の私室以外の場所を指すからだ。僕のユーリと呼ぶのはそういうこと。王の私室の前まで行けるってことは、許可を得れば入ることが出来る。
「ありがとう、僕の王、詳細は今夜。逢いに行くよ」
ユーリの手を取り、立ち上がる。拝礼の姿勢を取って踵を返し、元の道を帰って行く。手を繋いで。混乱してるユーリを引き連れながら、ユーリが何を聞いて来るのか、楽しみで仕方ない。
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