5 (終)

 ユーリは僕の集めた本を読んでいて、その足元に白虎がいる。いつの間に仲良くなったのか、認め合ったのかわからないけど、月明かりの落ちる窓辺のカウチに座り、小さなランプの灯りで本を読んでいる姿は絵になる。


 それを目の保養として眺め、堪能したところで部屋を後にした。


 王との約束の訪問をする。

 王の私室に入るのに許可はいらない。居場所も気配でわかるから、勝手に部屋に入る。


「もう寝る?」


 王の側にも白虎がいる。でも王の白虎は人型を取っていて、ベッドに横たわる王の隣で寛いでいる。


 この国の守り獣は白虎だ。

 王の白虎は、王のあらゆる手伝いをする。護衛もそうだし、身の回りの世話もして、夜のお相手もする。でもあくまで従者兼護衛で、恋人でも伴侶でもない。


「本気でアレを側に置く気だな」


「うん、そうだよ。良い男だろ?」


「それはそうかもしれないが、大丈夫なのか?」


 王の黒い長い髪が体を起こすとサラサラ流れる。王の虹彩はユーリよりも薄い青。細身のくせに筋肉質の体にローブを付けているだけの姿で、実に無防備でしどけない。


「最期には喰うから」


 僕がそう言うと、王はウンザリという表情をする。すかさず白虎が慰めの手を伸ばし、その手に王が口付けをする。


「俺はヨシカが決めたのなら好きにすれば良いと思うが——竜を持ち込んだらしいな」


「うん、仲良くなったから連れて来た」


 ソラは僕の家の庭で快適にしている。好きに飛んでも良い許可も出したし、従者も付けた。


「ご兄弟に叱られるのでは?」


「だって竜は小兄しょうにいが勝手に送り込んで来たんだよ? 別に欲しいなんて思ってなかったけど、あれば便利だなって」


「——便利って、それでご兄弟を怒らせても良いのか?」


「小兄は意地悪だから、何か言って来ても相手にしなければ良いよ。聞くだけ無駄だし」


 僕には3人の兄がいる。歳は知らない。歳という概念がないと言った方が良いかな。とにかく兄たちは僕を揶揄うのが好きで、それを可愛がっていると勘違いしている。


「ヨシカの好きにしたら良いよ。俺らは受け入れる他はないのだからね」


 白虎を引き寄せて口付けをしている。

 白虎は獣の耳があって、白い髪が人のようにあり、頬の下部分から白と黒の虎柄の毛皮がある。体は人と同じで、長い尾が生えている。ベッドの上では服を着ておらず、性的欲求も隠していない。


「国に迷惑はかけないよ。また報告に来る」


 本格的に始まる前に部屋を出る。長い付き合いだ。別にどういうこともないが、王には白虎ではなく、伴侶を得て欲しいと思うのだけど。今のところ、白虎以上に惹かれる者はいないらしく、どうしたものかとは思うのだけど。


◇◇◇


 僕の家に戻ると、ユーリがカウチでうたた寝をしていた。僕の白虎は獣の姿のまま。人型を嫌うタイプの獣人だ。言葉もわかっているし、状況も読む。僕がユーリに近づいて行くと、すっと身を起こして部屋を出て行った。


 ユーリのいるカウチに寄り、覆い被さるように口付けをする。ピクッと眉を動かし、ゆっくり瞼が上がって行く。綺麗な青い瞳を見て、僕のものだと思う。


「ユーリ、欲しい」


 さっきまでしていたというのに、また欲しくなる。王と白虎の雰囲気にあてられたのかもしれないけど、それは癪なので、考えないようにして、ただユーリが側にいて、いつでも触れられることに喜びを感じ、身を委ねる。


「望むまま、いくらでも」


 受け入れられる喜びを知り、受け入れる甘い気持ちを噛み締める。


「僕のユーリ」


 ユーリの腕の温もりが好き。



◇◇◇


おわり


ありがとうございました。

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