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竜騎士の日々は忙しい。
朝の数時間は竜の世話にあてられていて、信頼関係を築く為に使われているけど、その他の時間は、事務仕事や訓練、貴族の開く宴に騎士花形の飾りとして出席を求められていたりして、日々大変そうだ。
ユリウスに至っては、それに加え、様々な軍部との会議や部下との報告業務など、さらに忙しいようだ。
僕はそんなユリウスの忙しさを見ながら、ユリウスの部屋でのんびりくつろいでいたり、竜宿舎のある山に行っては見学しているだけで、淡々とした日を暮らしていて、身の内側にあるアルの意識が焦りを感じているのに、それには気づかないふりをしている。
元々、時の流れに疎い。
人より長く生きられるからだろう。
アルの生には寿命がある。わかっていて動かないのは、思う以上にユリウスの側が快適だったからだ。
なのに今日、初めての不快を感じている。
「いい加減にしろよッ!」
騎士たちが竜に乗って演習に出かけた隙を狙って、騎士見習いたちが僕を取り囲んだ。
「隊長の甥っ子って嘘だってな!」
「どうやって取り入った!」
肩を押されて柵で背中を打った。
胸ぐらを掴まれて引き上げられ、息が詰まる。
「別に、良いだろ?」
吐き捨てるように言ったら、頬を殴られた。地面に尻をついて、唇から垂れる血を拭い、舐め取った。自分の血の味、久しぶりだ。
「あのさぁ、僕を甥っ子って言ったの隊長だよ? それに逆らって、こんなことして良いと思うの?」
立ち上がろうとしたら脇腹を蹴られた。
「うるさい! おまえ、どっか行けよ! なんでお前ばかり優遇される! 俺らは長い間、勉学や訓練に苦しめられて、やっと、やっと掴んだ場所なのに!」
頭上で叫き散らされると耳がキィンッてする。脇腹が痛い。思わず唸り声を上げそうなのを耐えている。
「君たちは偉いね。すごいな、椅子に何時間も座ったり、重い剣を持って訓練するんだろ? 長い間ってどれくらい? 5年? 10年?」
「何言ってんだ、おまえ! バカなのか?」
視線を合わせると睨みで怯えさせそうだから、ずっと俯いている。手の力を抜けば襲いかかってしまいそうだから、ずっと握りしめている。
「ああ、見てみろよ、竜が降りて来る」
視線を向けなくてもわかる。あれはグレイヴの気配だ。
僕がそう言うと、みんなが一斉に空を見て、怯えた態度で散って行った。
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