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 僕を遠巻きに観察しながら、警戒の視線を向けて来る人がいる。


 僕と同じ見習い服を着て、竜の寝床の掃除や片付けをしている最中に、僕を気にして見て来るから、そちらを見やると、パッと視線を外されて、どこかへ行ってしまう。


 僕は柵に手を置いて、竜と騎士とのやり取りを見ているんだけど。今は竜の鱗の手入れだとか、足や翼を見ていたりだとか。相棒との触れ合いといった感じなのかな。すごく穏やかな時間が流れているから、僕も暢気に見ていたんだけど。


「隊長には甥っ子なんていませんからね」


 後ろから楽しそうに近づいて来たのは、ぽやぽやっとした金髪癖毛の、騎士にしては細身の男で、胸の徽章を見ると僕と同じ絵柄が付いていた。


「だから彼らは僕が嫌い?」


 僕と並んで柵に手を乗せた彼は、僕を見てふふっと笑う。


「そんなことを知っているのは、隊長と親しい者だけですよ。隊長の甥っ子のアルくん、僕はクリスティアーノ、クリスで良いよ」


「クリスは隊長と親しい?」


「そうですね、同じ領主の息子なので、それなりには」


 同じ領主の息子? それって兄弟じゃないの? でもユリウスとクリスに血の繋がりを感じない。どちらかが養子ってことかな? 


 クリスは、そばかすの浮いた白い肌、顔をクシャってする笑い方をする。見た目の印象は悪くないのだけど、僕の中の何かが警戒している。


「隊長は嫌われてるの?」


「まさか、あのグレイヴに選ばれたんだよ? すごいことさ」


 クリスは徽章からすると隊長の直属の部下だ。違うのは胸にあるピンバッジで、黒揚羽蝶がデザインされている。年齢はどうだろう? ユリウスより若く見えるけど、ユリウスが老けているってこともあるよね?


 ただ思うのは、ユリウスって見た目が神経質そうだし、ぱっと見怖そうだけど、実は距離が近くて懐が深いと思う。だって僕をすんなり受け入れるんだよ? グレイヴから何となくの正体を聞かされているだろうに。知らないクリスの方が警戒心を持っていると思う。


「グレイヴが基準なの?」


 クリスの言い方は歪だ。それではグレイヴの乗り手ではないユリウスは好かれていないってことにならない?


「僕たちは竜騎士だからね。竜に好かれていなければ意味がないよ」


「クリスの竜は?」


 僕がそう言うと、クリスの口端を上げていた笑みがすうっと引く。何かまずいことを言ったんだとは思ったけど、竜騎士なんだから、自分の竜がいるのは基本だろ? クリスは隊長と同じ制服を着ているのだから。


「アル」


 都合よくユリウスが呼んでくれた。


「はーい」


 クリスから距離を取る。僕の中の感覚が、クリスを怖いと思っていた。


 ユリウスの方に駆けて行きながら、竜施設で作業をしている見習いたちの、冷ややかな視線を感じていた。

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