6

 竜の背はひんやりとした鱗で覆われている。だけど僕の背に触れているユリウスの胸はとても温かくて、僕の身を守るように、腹に回された手で絡め取られているのも、不思議な感覚だった。


 僕は守られる存在ではなく、守る存在だ。

 今はアルだから守られる存在なのだけど。初めて知る守られることが、こんなに変な感覚だとは知らなかった。


 そういう未知の感覚を、竜に知られている。揶揄う雰囲気が彼らにはあって、僕を乗せているグレイヴも、わざとらしく上昇させたり、横に回転して驚かせたりして来る。


「グレイヴ、いい加減にしろ」


 ユリウスに怒られて、シュンっておとなしくなった頃には目的地に到着していて、騎竜に慣れていなかった部下が、気分を悪くしていたんだけど。


「大丈夫か? アル」


 僕も竜の背から下ろしてもらって、地面に転がった。


「自分で跳ぶのとは全然違う」


 弱音をはいた。気分が悪いし目が回る。


「グレイヴが調子に乗った、悪いな」


 差し出された水を飲んで、目を瞑っていたら少し落ち着いた。


 視線をあげたら竜に取り囲まれていて——警戒の咆哮をあげそうになり、ごめんっていうグレイヴの声が聞こえて踏み止まった。


「もーいいよ、大丈夫だから、っていうか近いよ」


 10頭近くの竜が僕の頭の上でフースーしている。普通に生きていたら越えない国境を越えて来たから珍しいのもわかるけど、今はアルっていう人なんだってわかってもらう。


 そこはグレイヴが統率を取ってくれて、取り囲んでいた竜達が離れて行った。


「おまえ、来て早々目立っているが?」


 竜と人とを隔てる柵の向こう側で、竜騎士が隊列を組んで並んでいる。30名ほどいるだろうか。みんなユリウスと同じ制服だ。それは黄土色に赤い線の入った詰襟で、腰にホルダーがあり、剣と袋が付いている。上着と同色のパンツ、膝下丈のブーツ。後ろの方にいるのは僕と同じ見習い服の人で、でも僕よりずいぶん年上に見えた。


 彼らは僕の方を見て驚いたり、否定するような表情をしているが、仕事中だからか黙っている。


「好きで目立っている訳じゃないよ」


 気分も良くなって来たので、立ち上がって服に付いた泥を払う。


「竜の興味を惹いて、竜に好まれないとはな」


「うるさいよ、ユリウス」


 僕がそう言うと、部下がざわついた。

 ああそうか、ユリウスはこの中で一番身分が高いんだった。


「騎士長……さま?」


「隊長だな」


「ユリウス隊長」


 見上げて名を呼ぶと、フッと笑って髪を混ぜるように撫でられた。どうやら良かったらしい。


「これは俺の甥っ子だ。体験という名目で竜の宿舎で働かせる。だがまあ、当分は自由にさせてやって欲しい。邪魔になるかもしれんが、悪いな、面倒をかける」


「はっ」


 部下が声を発して敬礼をする。この国の敬礼は右手を胸に当てるようだ。


「僕は何をしたら良い?」


「好きにしろ」


 ユリウスのお許しが出た。


「グレイヴ以外の竜にはお前から近づくな。乗り手が嫉妬するからな。それと竜と意志の疎通が出来るのは秘密にしろ」


「うん、わかってる」


 僕はユリウスの側から離れて、柵を越え、ひとまず結界内の探索から始めた。

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