僕の国

1

 僕の国に帰るのは久しぶりだ。でもアルの姿では入国出来なさそう。出る時は簡単なんだけど、入るのはね。だから自分の家に先に向かう。王に会わないとダメなんだけど。王に仮初の姿でも、死ぬところを見せたくないし。


 ユリウスは何も言わずに竜に乗っている。ユリウスには途中で目隠しさせた。理不尽な扱いだろうに、文句なしで受け入れている。


“俺は道を覚えたけど良いの?”


「良いよ、僕なしでは通れない場所だから」


 僕の家は別空間だ。僕以外には入れない。ユリウスの目を隠したのは、道を知られたくないからではない。人には理解しづらい状況であるからだ。


「目隠し取るよ」


 ソラの上で目隠しを取る。閉じていた目が開いて行くのを見ている。


 僕はもうアルの姿ではない。

 僕の空間に入る時、僕の擬態が解けた。それはつまりアルの心を手放したことになるのだけど。ユリウスは大丈夫かな? アルとは幼い頃、一緒に生きていた仲だから、急にいなくなったら混乱しない? それと僕の本当の姿を見て、ひかない?


 ユリウスの青く綺麗な瞳が見える。じっと僕を見て、僕の長い髪を一房取り、掬い上げて口付けをする。いつも以上に甘い表情を向けられて、見つめているのが困難になる。


「ヨシカ」


「ん?」


 視線を外してそっぽを向いたのに、頬を撫でられてしまった。


「〜〜〜ヨシカ! ここでの僕の名前!」


「ヨシカ、可愛い名だ」


 手を握られてしまった。

 甘い! 雰囲気が甘い!

 ユリウスめ、失う物が何も無くなったからか? 繕う相手がいなくなったからか? 知り合いが僕しかいないから? ダメなんだよな、元々、ユリウスの青い目を綺麗だと思ったし、甘やかされるの好きだし、本当の僕はユリウスよりは背が低いし華奢だけど、アルよりはずっと大きくて——甘やかして貰うほど子供ではない。


“俺の上でイチャつくな!”


 ソラに怒られて、ソラの背から飛び降りた。ユリウスも続いて降りて来る。降りてからも甘い態度を続けて来る。床に膝をつき、手を引かれ、甲に口付けされた。


「いつ俺を喰べる?」


 ああ、そうだった。ユリウスを喰べる約束があった。とにかく恥ずかしい。こんなことされたことない。だって僕はこの国の人とは違う者で、この国の王だけが僕と話す。他の者は僕と話すのに許可がいるし、許可は王が出す。


「まずは僕の王に会って許しを得るよ」


 ユリウスの手を引いて立たせると、なぜかそのまま手を繋がれていて——ソラを見た従者が驚いているけど、僕とは話せないから戸惑っていて。ソラの方に話す権利をあげたら、なんかワガママ放題に欲しいものを要求し出してた。


「僕の王?」


「うん、そうだよ。僕は僕の国では王の側近扱いで、本当はもっと大きなものなんだけど、そんなの説明難しいだろ? だから側近。王の国にいる間は、何をするにも王の許可がいる。ユリウスを喰べるのにもね」


「良くわからないが、従おう」


「うん、そうして? 僕は本来、僕の王のものだからね。でも、ユリウスは僕のものだから」


 そう言ってユリウスを見る。ユリウスが近い。いつも大きく見上げていたのに、今は少し視線を上げれば視線が合う。もう抱え上げて貰えないのかって思うと寂しいかな。でも寄りかかれる。いつもより近くに綺麗な瞳があるから、つい魅入ってしまう。


「そんなに見られると口付けしたくなる」


 スリッと肩を寄せられて、繋いでいる手の、親指が動いて、皮膚を撫でられた。


「ダメだよ、僕の王に会うんだから」


 付き合い方が大人になってる。それはそうか、見目が大人になっているから。アルでいた間の焦燥感は晴れるんだけど、違う焦燥感が生まれる。厄介かもしれない。

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