2

 犬は美味い。

 何日かぶりの食事をして、ひと息吐いていた時、人の気配を感じて木の上へ避難した。


「こっちだ! 犬が喰われている。魔物か? 犬が怯えている」


 手に綱を持ち、綱の先に犬を3頭従えた兵士が2名やって来た。その合計6頭の犬は、僕の気配を感じているのだろう、尾っぽを足の間に巻き込んで、兵士の後ろに回るという情けない姿を見せている。


 笑いたいけど我慢して、木の枝を伝って彼らから距離を取った。


 湧き水を見つけて手や顔を洗い、血を流す。犬は美味いけど人の友で、見つかれば厄介なことになるから、あまり口にしない。別に今の子だって向かって来た訳じゃないから逃すこともできたけど、単に腹が減っていた。運が悪かったね。


 竜の姿は見えない。もっと奥に行かないとダメかな? それとも時間のせい? 昼間はどこか遠くに行ってお仕事とか訓練とか、日が落ちるまで帰らないのかな?


 いっそ王城に入り込んで、竜のいる場所を探した方が早くない? あの門番が言ったのは、この国のやり方で、僕とは違うんじゃないかな?


 だって僕はこんなお堀なんてひとっ飛びだし、城壁だって軽く越えられる。竜の気配なら割と感覚で分かるし——ただ、それを見られて、人との良好な関係を築けるかと言われたら、無理なんだろうな。犬を喰うのさえ認められないのだから、人のやり方に従うのは難しい。


 願いはまだある。

 ヒロイがヒロイの望み通り、あの子の願い通りに生きているのか。そんな確認を願うなんて——あの子が僕の中に宿るまでに、人にとって何年を経たのかな? 人の寿命は短い。いっそ竜の方が覚えていたりしないかな? 確認できないと困るんだけど。


 うーん、どうしよう。


 ひとまず夜を待って、忍び込んでみようかな? 人よりは竜の方が会いやすいかも。だってあいつら、人に従うくせに、会話は出来ないんだよ? 人に従うのは友愛と愛情の狭間くらいの感覚で、犬とさして変わらない。個体差はあるけど、人と同じように知性があるのに、人に従っている不思議。


 ああ、でも今の僕は彼らと変わらないか。あの子の願いを叶えることが使命みたいなものだから。


 太い枝の上で寝転び、しばしの休息を取る。今日は明るい満月の日。心の中がいつもよりソワソワしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る