アルの願いを伝える為に

1

 遥か遠く、高台に佇む王城を目指し旅立ったのは、美味しく喰らった人の願いだったからだ。


 我が王に謁見し、その旨を伝えると、美しい黒髪の王は諦めのため息を吐いた。


 僕のワガママはいつものこと。それが契約に基づく願いであれば、引き留めることなど出来ないことをわかって、あえて謁見し、報告した。


 くれぐれもやりすぎないように。それが渋々許した王の言葉で——小言も無く許されたことが嬉しくて、密かに付けられた護衛をまいて逃げながら、合法的に国を抜けられる自由さに目眩さえも覚える。


 目指すはあの子の記憶にある王城なのだけど、竜騎士になるっていう願いはどうなのかな? 他国の得体も知れない若者を、竜騎士にさせてくれるのだろうか?


 王城のある国は北を山脈、東を大河、南を海、西を砂漠とする。西の砂漠を超え、その先は他国へと至る。この大陸内では自然で囲まれ孤立した国域になっていて、この国の争いは人より魔物の方が多く、国境を守る軍は魔物退治に特化した精鋭を置いている。


 でも僕はとても身軽だから、精鋭と言われる兵士の警備なんて軽々越えられる。暗闇に紛れて物音ひとつ立てずに通り抜けるなんてお手のもので——身一つの僕を止めることは出来ないよ。


 走るのも早いよ。国を出て来る時にいっぱい栄養を取って来たから、数日食べなくても大丈夫。たった3日で目指した王城の城壁前に立った。


 豪華な馬車が通り過ぎて行く。

 徒歩で城壁前に立つ人なんていなくて、大きな門の前に立っている衛兵の視線が僕に向いている。きっと頭のおかしい人がやって来たと警戒しているんだろうけど。


 うーん、どうしたら良いのかな?

 僕にはこの国の常識がない。どうやったら竜騎士になれるのかな?


「こんにちは、おにーさん、僕ね、竜騎士になりたいんだけど、どうしたら良い?」


 重そうな甲冑を付けて、槍を持ち、剣を佩いた門番に聞いた。僕を見た門番は面白そうな顔で僕を見たけど、後ろにいた門番は馬鹿にしたように笑った。ちょっとムッとする。あの子の願いが無ければ喰っていたかもしれない。


「君は幾つ? 身分証は持ってる?」


「幾つに見える? 身分証は持っていないよ?」


 目の前の門番は困った表情をしたけど、後ろの門番は唾を吐くように笑ってる。


「幾つに見えるかって? 自分の歳も知らねえのか。おおよそ13ってとこじゃねえ? 身分もねえだろ、帰れ帰れ、仕事の邪魔だ」


 13か。あの子の歳はそれくらいか。


「13歳なら騎士学校の試験が受けられるよ。あの向こう側の教会が見えるかい? あそこで身分証を貰って、試験を受けさせて貰うと良いよ。試験に受かれば騎士学校に通える」


「嘘だろ? こんな薄汚えガキが騎士学校? ありえねえ」


「ありがとう。でも学校は行かないよ? もっと簡単な方法ないかな?」


「おうおう、無理だ無理だ。さっさと帰れ」


 そうだねえ、と優しい門番は考えてくれる。


「そうだ、今の竜騎士長は竜に気に入られて竜騎士になったそうだよ。竜は王城の裏手に降りる。運が良ければ竜に見初められるかもしれないよ」


「馬鹿じゃねえの、何年も門番してるけど、竜なんか見たこともねえよ」


「なるほど、わかった。行ってみるね、お兄さんありがとう」


 僕はさっそく王城の裏を目指して歩き出した。でも王城の裏ってどうやって行くの? 王城の周りにはお堀があって、綺麗な水に水草が生え、可愛い花が咲いている。水鳥が優雅に羽根を広げ、大きな魚が水中を泳いで行く。


 王城の左右後方は森になっていて、人が入れるようにはなっていない。森の入り口にある立て看板には注意事項が貼られていて、特殊な罠が仕掛けられている、獰猛な犬が放飼いされている、許可無く立ち入った者の命の保証はない、などと書かれていた。


 でも僕は大丈夫。罠なんて見抜けるし、犬に負ける気はしない。


 城壁をくるりと周り、東側の森の中に入って行った。

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