アルの夢を叶える為に

1

「竜騎士になって〜ヒロイを見つけて〜寿命を迎えたら〜おしまいっ」


 滅多にないユリウスの休みの日に、ユリウスの部屋でゴロゴロしてる。


「なんだ、それは」


 お休みなのに部屋に仕事を持ち込んで、書類を寝台の上に広げている。本当はユリウスのそばに引っ付いていたいけど、変に邪魔してユリウスに呆れられたら嫌だから我慢してる。僕が我慢するとか、国の王が聞いたら呆れると思う。


「別に〜今後の予定?」


「それは難しいな、竜に苦戦しているだろ」


 もうすぐ建国記念日らしくて、その警備とか催し物なんかの書類を確認しているのに、耳は僕の声を拾っているらしい。


「竜な、竜だからなぁ」


「諦めるか?」


 ユリウスは簡単に言う。その表情も完全に揶揄うものだ。僕は不貞腐れて書類の山の寝台の上に腹這いで飛び乗ってやった。


 書類が散らばり、床に落ちて行く。ユリウスが悪いとユリウスを見上げ、その胡座の膝に頭を乗せる。仰向けてユリウスの顔を下から見上げる。


「ユリウスは簡単に竜に乗っているけど、あれだって本当はこの世のものではなくて、僕の知るべき生物でもなくて——あーあ、僕が生み出したものでもないから思い通りに行かないのに、ユリウスはわかってないよね」


「まぁ、わからないな」


 ユリウスの手が僕の頬に触れ、その温もりに絆されそうになって、手を伸ばしたけど、触れる前にやめておいた。


「魔物だって知らないうちにいるし、でもあれは楽しいから良いけど」


 暇すぎてアルではない僕の話をして、これは良くないな、また僕の王に怒られるなと思いながら、口を噤む。


「お腹が空いたのか?」


 ユリウスはユリウスで、僕の大まかな事情をグレイヴに聞いているからだろうけど、ぼくのまずいっていう感覚を拾って話をはぐらかしてくれる。


「別にそうじゃないけど。——出かけて来る」


 ユリウスは僕のものではなくて、僕の王とは違うのに、一緒にいる時が長くなると曖昧になる。ユリウスにはユリウスの未来がある。今はそのほんの少しの時間を譲って貰っているだけだ。


 ユリウスは僕を自由にしてくれている。

 王城内をうろつくのは流石に止められているけど、竜の居場所やユリウスの個人的な場所は許してくれている。でも竜は相変わらず僕には無関心で、ユリウスのいない時のグレイヴは、近づこうとも、意思を向けて来ようともしない。


 僕もまた、竜に関心がないのが悪い。

 僕の中のアルにしたって、竜を見たこともなく、ただこの国の花形の職種で、平民だろうが奴隷だろうが、竜に見染められればなれる、その希望に夢を見ているだけだ。


 アルの言うヒロイという人が竜騎士になっていたら、きっとアルの想いを叶えたことになったのだろうに、今のところ、竜騎士たちにアルの想いを揺らす者を見つけていない。


 もう、どこで何をしているんだよ、ヒロイ。


 旦那様が言うには、アルが出て行ってから10数年が経っている。となるとヒロイは20歳後半くらいの年齢になっている。それはきっとユリウスと同じくらいで——ユリウスの前で名前を出してみたんだけど、特に何の反応も無くてがっかりだ。


 実はユリウスの知り合いで、竜騎士でした〜が手っ取り早いのにな。


 そろそろ自国に戻りたい気もする。

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