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 あんなに好きだったユリウスの温もりを、好きだと思うことさえ許されないような気がする。


 ユリウスの視線がグレイヴに向かったことに気づいた。何かを話したらしい。そうしてグレイヴが許可を下した。


 怖かった。

 良くはないことを告げられる。その予感だけがひしひし伝わって、しゃくり上げるくらいに泣いた。


「グレイヴの前任者の名は、ルードリヒ・リヒテンバーグと言うが、元は俺と同じ孤児で、路地裏で潜んで生きた、ヒロイという」


「嫌だ、ユリウス」


 心臓がどくんと跳ねた。胸を押さえて、荒い呼吸を繰り返している。


「アルはヒロイが好きだった。だがヒロイは良い人では無かった」


「やめて、ユリウス、僕の中のアルが、泣いてる」


 振り返ってユリウスを見れば、顔を右手で覆って、その手を涙で濡らしていた。


「アルは足が悪かったから、俺たちはアルを庇っていたが、ヒロイはアルを同じように扱った。それは俺から見たら都合よく使われているとしか思えなかったが、アルはそれが嬉しいと——守ってやれず、悪かった、アル、許してくれ、ヒロイの命を奪ったのは俺だ」


「それには理由があった、そうだろ? ヒロイはグレイヴを怒らせた。ユリウスのせいじゃないだろ?」


 グレイヴが喉を鳴らして、ユリウスを気遣っている。


「それにユリウスの妹を——アルだってわかってくれる。ヒロイは竜騎士になってた、それでもう良いよ」


「ヒロイは命乞いをしたよ。心を入れ替える。妹のことを愛していた。こんなことになるとは思わなかった、と。俺は許せなかった。アルを置き去りにしたことも、身分を偽って、孤児のふりをして、俺たちの情報を売っていたことも——妹のことも」


「……最悪だ」


 ヒロイは思っている以上にクズだ。

 ヒロイが情報を売ったせいで、アルもユリウスも奴隷となった。ただ親がいないというだけの、何の罪もない子供を。


 怒りが溢れた。

 両手を握り、震えをやり過ごしている。

 僕の中のアルが怯えている。でも怒りのやり場が見つからず、奥歯がギリリと鳴る。


「わかった、ユリウス、おまえは僕が喰う」


 僕を背中側から抱きしめているユリウスには、僕の怒りが届いている。ユリウスの膝が緩み、地面に落ちる。僕の腹を抱いて、嗚咽を漏らした。


 こんな結末の為にアルの想いを引き受けたつもりは無かった。アルの思い描く竜騎士への憧れは尊いほど美しくて——その想いに惹かれて、美しい夢を見た。


「僕をソラと一緒に、飛行演舞に出させて? アルの想いはそれで終わらせるよ。でも、ユリウスもグレイヴと飛んで? そうしたらユリウス、その後、おまえを喰う、約束するよ」


「ああ、わかった。感謝する」


 ユリウスを振り返ると、ユリウスが見つめて来る。


 惹かれるように口付けをして、襟を開いて、首筋に噛み跡を残した。

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