4

 夜の湖はとても美しい。

 鏡のような湖面に満天の星が映り込み、空なのか湖面なのかわからない、青く煌びやかな世界になる。


 その中央に浮かんでいると、星の音まで聞こえて来そうで、そのうち深い孤独に陥りそうになる。


 風を切る音が聞こえ、湖面が揺らぐ。水飛沫がかかり、波に飲まれそうになりながら、体勢を保つ。


“人がいたんだ”


 頭の中に声が響く。

 湖の辺りに降り立ったのは一頭の竜で。こうして竜が降り立った姿は何度も見た。でも人がいるとわかるとすぐに飛んで行ってしまった。なのにこの竜は話しかけて来た。


“人? 新種の魔物?”


「人だよ」


 泳いで竜に近づき、水から上がった。


「僕を乗せてくれない?」


“嫌だ”


 即答で断られた。プルプルと頭を振って水気を飛ばす。


「期間限定だったらどう?」


 僕としては、数日、竜騎士であれば良い。竜騎士体験をして、僕の中のアルが満足してくれたら良い。


“より嫌だよ。それにここのリーダーは、グレイヴなんだろ? 従うには格下すぎる”


「格下? グレイヴが?」


 僕がそう言うと、竜はフンッと鼻を鳴らした。嘲笑っている感じ?


“そうだよ。竜の群れから見放されるのは、弱い個体だよ。グレイヴは一族のトップになれなかったから、怒って出て行ったんだけどね”


「へえ、そうなんだ。で? 君は? 君も群れから出て来たんだろ? 弱いから?」


 僕がそう言うと、翼を広げて風を起こし、抗議をして来る。顔を近づけられて、威嚇された。


 僕はピョンって後ろに飛びのいて、笑ってやった。


“うるさいな、偵察だよ、逃げたんじゃない”


「うーん、でもそうか。本来の竜って、もっと大きいよね? グレイヴは小さいと思ったんだけど、違う?」


 一番最初に会った時の印象だ。他の竜も大差がないから、気にならなくなっていたんだけど。


“良く知っているね。竜王に会ったことが?”


「えっと、最初の竜を知っているだけだよ」


 そう言うと、竜は僕をじーっと見て来た。


「なんだよ? 嘘じゃないよ? 竜の生息地も知ってる」


“ああ、そういうことか、初めて見た。でもなぜあなたがこんな所に?”


「たまたま偶然?」


 それ以外に言いようがない。

 たまたま喰った子がこの国の竜騎士になりたいと願ったから。


“良いよ、なってあげる。期間限定? 僕もグレイヴを見に来ただけだからね”


「商談成立?」


 こうして僕は竜を手に入れた。

 でも期間限定と竜の思惑はナイショってことで。

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