2

 腐った臭いのする用水路から、今度は糞尿の臭いのする牢に入れられた。

 手足には重い拘束具が付けられ、首に奴隷を意味する首輪が付けられている。


 僕は路地裏の孤児から奴隷となった。


 お腹が空いた。そればかりが頭の中にある。いっそ死んでしまえたら……そう思う。


 牢は動いている。暗いから周りは見えないが、呻き声や泣き声が聞こえている。意味もない音だけの声に、皆、僕と同じなのだろうと思う。


 子供の孤児は人買いに狙われやすい。身元が不明だし、大人を相手にするよりも躾けやすいからだろう。


 牢に伝わる振動が止まり、光が入り込む。光と言っても月の淡い光で、隣に座っている子が薄ら見える程度だった。


「出ろ!」


 男の声と同時に鎖が引かれ、意思など関係なく牢から出された。


 砂の大地と吹き荒ぶ熱い風にさらされ、ここが砂漠の入り口だと知る。砂漠には幾つもの商隊が潜んでいると聞く。砂の下に街を築く一団があるとも。


 砂漠へ連れ去られたら、二度と街には戻れない。


 ——ヒロイ


  物心がついた頃から一緒にいる友の背中を思い出し、両手を握る。


 これは僕が望んだ結果だ。

 病魔に冒されているこの体は、いつか全部が動かなくなる。今でもヒロイに負担を掛けているのに、動かない体の世話をされるなんて——そんなの耐えられない。


 腰に付けられた鎖に引かれながら歩く。

 夜だから空気が冷めている。これが真昼だと想像して、灼熱に身を焦がし、枯れ果てて行く様を想像する。


 いっそ、それも良いかと思う。

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