3

 暗い地下の横穴の中で、僕は性奴隷として暮らした。


 硬いパンと味のしないスープが朝に一度、渡される。それで1日が過ぎた事を知る。誰に抱かれているとか、何人の相手をしているとか、横穴に焚き込まれた香の煙で感覚が麻痺しているから、そのうち日を数えるのさえわからなくなった。


 客は乱暴で好き勝手にする。僕の体が使い物にならなくなるのはあっという間だった。


 ろくな手当てもされず、ゴミのように、砂漠の中に捨てられた。


 いっそ意識を手放せたら楽だった。


 僕の体の病魔が進み、良い具合に体を麻痺させていたから、余計な痛みを感じない。頭も香の痺れを残したままだから、自分の死期さえも見えない。


 馬に乗せられる。

 もう嫌だと心が叫んでいる。声などとうに無くした。それなのにまだ生きなくてはならないのか。


 体を洗われ、衣服を着けられ、喉を潤され、粥を食べさせられて——意識を浮上させた時には、清潔な寝台に寝かせられていて——驚いて床に落ちると、優しい手が抱き起こしてくれた。


「しょうのない子だ」


 甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 頬に触れたのは上質な生地で、見上げれば美しい顔が見えた。


 長く真っ直ぐな白に近い金髪が緩く結ばれ、右肩の上に流れている。僕を見下ろした瞳は美しく輝く青緑で、白く滑らかな肌は高貴であると示しているようだ。


「旦那様、私が」


 僕を抱く男に手を差し伸べたのは、黒服を着た冷たい印象の男で。


「おまえはもう少し優しい表情ができないのか? この子が怯えているだろう」


 男の手が引き、僕は綺麗な男の人の手によって寝台に下ろされた。


 すみません、ごめんなさい、いろんな言葉を出そうとしたけど、僕の喉は声を出すことを拒む。呼吸は出来ているのに、声を出す為の息は出来なくて、態度で気持ちを伝えようとするのだけど、それは男の手で止められてしまった。


「無理はしなくて良いよ。声はそのうち出よう。今は何も考えずゆっくり休むと良い」


 こくんと頷くと、旦那様は綺麗に笑った。

 その後ろに立つ黒服の男の冷めた視線には気づかないふりをした。

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