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 とても広い部屋に連れて行かれ、お風呂に入れられた。


 お風呂は外にあって、石の組まれた穴の中にお湯が溜まっているというもので、ユリウスに服を脱がされ、体を洗い布で洗われて、今は何故かユリウスの膝に乗せられて湯の中に浸かっている。


「あついよ〜出たいよ〜」


 ガッチリ腰前で腕を交差されていて、逃げないようにされている。ユリウスに頭の匂いを嗅がれて、ムッとする。


「血の臭いは無くなったな」


 ああ、そうかと思った。あれは人としてあってはならない姿だった。


「城の東森で犬が2頭喰われたらしいが?」


「うん、ごめん、気をつけるよ」


 この人、人として豪胆だと思う。

 犬を喰らった僕を抱えて、無防備に肌を晒して、急所を晒して、身を弛緩させている。いっそ清々しいくらい敵意を削がれる。むしろより信じられると思い、これがこの男のやり方か? と疑う。


「出て休もうか、明日は朝が早いぞ」


 抱えられたまま湯から出されて、侍女の待つ部屋へと歩き出したのだけど、僕はそういうの、慣れてなくて身構えた。


「良い、下がれ」


 ユリウスの一言で全員がドアの向こうへ去って行った。

 ユリウスが体を拭いてくれて、簡単な服を着せてくれた。


「アル、人の作法も覚えてくれよ?」


 それには頷く。

 促されるままに寝台に乗り、布団の中へ入れられた。欠伸が出る。そうするとユリウスが笑った。


「見目は可愛らしいと言うのにな」


「僕、可愛い?」


 そう言うと、僕に着せた服と同じ形で大きさの大きい服を着て、僕の横に入って来た。一緒に寝るのって普通のこと? 仰向けに寝ている僕の頬に手を触れさせて来たから、顔をユリウスに向けると、緩く笑まれた。


「13歳くらいか?」


「うん、見た目はそうらしいけど、どうかな?」


「見目はもっと幼く見えるが、中身はもっと上ではないか? ——目の色も髪の色も、喰らった獲物の色か?」


 そう言われて前髪を一房摘む。アルはどうだったかな? よく覚えていない。


「たぶん違う。これは僕の色だ」


「僕? ふうん、なるほど、柔らかい銀髪と赤い虹彩は君の色なのか」


 ユリウスは何やら納得げに頷く。


「うん、そう、僕の色だ。でも見目はアルだ。アルは可哀想な子だ。願いくらい叶えてやりたい」


「なるほどな、君は良い子らしい」


 髪を撫でられた。これも初めてだ。なにやら良い気分になる。これはアルの感情なのかも。


「寝台で眠るのも初めてだ。このまま目を瞑れば良いか」


「ああ、そうだな、このまま眠れば良い。朝は起こしてやる」


 僕はユリウスに言われるまま目を閉じる。

 瞼の裏にユリウスの視線を感じている。


「見られていては眠れない」


「そうか」


 ユリウスが僕に背を向けた。

 ユリウスは無防備だ。僕に背を向けて眠るなんて。不思議な気分を抱えて、また目を閉じた。

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