騒がしい夕食
「はぁ……」
疲れた。すごく疲れた。
それなのに……。
「お米って言うの? この白い粒、もちもちしてて美味しいわ」
「でしょー? 私たちのいた世界の国では主食だったの」
「こんな上質な純白の穀物が、当たり前のように出されたいたって言うの?」
「うん、そーだよー」
人畜無害の体言、出会って秒で誰とも仲良くできるアスカ。と、シャルティがわいわいと意気投合していた。
そんでもって。
「やはり日本人はお米に飽きないね」
「なんでオメーもいるんだよ?」
俺の隣でアラタが俺と、同じハンバーグ定食を食べていた。
「昨日の敵は今日の友。そして今まさに、同じ釜の飯を食べているじゃないか」
俺は静かに食事を楽しみたい派なんだけどな。
ガオンはガオンで、またカツ丼二杯とサラダの山盛りを注文し、「今日は私の筋肉たちが良く働いてくれた。そしてこの料理たちに深く感謝せねば!」とやっっったら長く手を合わせてぶつぶつと感謝の言葉を発していた。
騒がしいというか。もう、すんげえうっとおしいレベルである。
なんでこんな和気藹々しているのだろうか?
どうしてこうなった?
ん? そういえば。
「お前達のハーピィたちやホーリードラゴンは、食事はどうしているんだ?」
「召喚獣用の食堂に行ってるよ」
そんなことも知らないのか? と言うような口調でアラタが応えてきた。
「まあ、君の召喚獣ガオンは、こっちで食事を取るのが良いかもしれないけどね」
「ほーん」
言い出した手前だが、意外とどうでもいい話題だったかもしれない。
「そういえばマモル、お前のガオンは『妖精化』させないのか?」
「ようせいか?」
「おお、そういえば!」
ガオンが思い出したように声を上げた。
「マモルには見せていなかったな!」
すると、ガオンの全身が光りだして、どんどん小さくなっていく。
そして三対の虹色に輝く羽根を持った……ちっちゃいおっさんが現れた。
「これが召喚獣の変身能力。私の場合は妖精化。このように最小化になれる」
「なんだか無性に叩き落としたくなってきた」
「他にも、擬人化。小獣化……召喚獣にはそれぞれ特有の変身能力がある」
「じゃあ、小さくなってカツ丼食べれば、相対的にもっとたらふく食えるんじゃないか?」
「確かに、たらふく食べられるだろう。だが栄養価は変わらぬのよ」
「ああ、なるほどね……」
たとえば自分が小さくなってケーキを食べても、普通のサイズの体で食べても、摂取できる栄養は変わらない。だったらむしろ小さくならないで食べたほうが大きく栄養を摂取できるって事か。ダイエットの場合は効果的かもしれない。
アスカが指摘してくる。
「マモル、召喚獣用の食堂とか、変身能力とかの説明は、今日の授業でやったはずだけど。覚えてないの?」
「特に興味が無かったからなあ……」
「やれやれ、興味が無いと何も出来ないとは、僕はそんな君に、負けてしまったわけか……」
アラタがため息をつく。
「ああ、そうか。勝ったのはガオンだったね」
余計な一言が俺をイラつかせる。
そして、自分がイラついた時に、思うことは。
「だりぃ……」
誰かの何かにイラついても、何にもならない。そう悟った俺は、いつもこういう負の感情に対して気だるさを覚えるようになった。
「もっと召喚獣や、この世界のことを知るべきだと思うよ。マモル」
「へいへい。そーですね」
「あ! それなら!」
シャルティが両手をぽんと合わせて提案してきた。
「次の安息日に、みんなで学園の外へ出ましょうか。私が授業よりも一足先に、私たちの世界のことを教えて差し上げますわ!」
「ええー……」
なんだかめんどくさい事になってきた。
「そうだね。転移してきた異世界人に対する給付金も入学式の時にもらってあるし、この世界の事には興味がある」
アラタが同意した。
「じゃあ決定だね!」
アスカが喜んでいる。
俺の意見は、発言すら許されませんか、そうですか。
「ほほう、この世界がどれくらい進歩したのか。この筋肉も興味がわくぞい!」
「じゃあ、明後日の安息日までに、みなさん外出届を出して、学園の外に出ましょう」
はい、めんどくさいこと確定しました。
安息日は七日間に一日と限られている。俺たちの世界では週休二日制だったのになあ……。貴重な休みが、この世界の観光で埋まってしまった。
「はぁ……」
ため息が出る。何かこう周囲が活気付くと、俺は逆に、まるでエネルギーを吸い取られているかのように気だるくなってしまう。
俺は元の世界に返りたい派なわけなので、この世界の事にはまったく持って興味がわいてこない。召喚獣を死なせないで退学処分になって、本当だったら行くはずだった、元の世界の高校に行って、それなりの成績を収めてダラダラとしたかったのに。
周囲はまるで宝箱の山を見つけたかのように、未知なる世界にキラキラと目を輝かせていた。
なるべくコンパクトな生き方をしたい俺にとっては。
この世界には似合わないのかもしれない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます