そしていつもの昼休み。

「…………」


「マモル、どうしたの?」

「え? なに?」

「すっとボーっとしちゃって、なにかあったの?」

「いや、なんでもないよ。うん。大したことじゃない」


「マモルが放課後に、学園長の承認をもらって二年生と戦うことになったんじゃ」

「え!」


アスカの言葉が勝手にながれていく。 

対戦の事よりも、レイナ先輩の事で頭が一杯だった。


 本当に綺麗な人だったな。おしとやかそうで、美人で、ああいうのを大和撫子って言うんだろうなあ……。


「マモル、どうするの? ……マモル」


 はあ、小さい声だったけど、透き通るような、まるで心に心地良い風が吹くような声だったなあ。また聞きたいなあ。笑ったらどんな素敵な顔になるんだろう。


「マモル!」

「へぁ?」

「どうしたのマモル? ボーっとして」


「それがの、そのレイナ・レイスというニ学年の女史は、とんでもない美人だったんじゃよ……」


「…………へぇ」

「そうだったのですね」


 アスカとシャルティがこちらをジト目になって睨んでくる。


「ふ……これもまた青春の一ページか」


 となりにいるアラタの察した上での中二病セリフもどうでもいい。また会えるんだよな。対戦のときに。


「面白くありませんわ。狙うならこのドラゴン使いのシャルティ・シャルレットが相手をしますのに」


「うーむ。それが、相手はゴーレムらしいのだが」


「ゴ、ゴーレム……」


 ゴーレムの名を聞いて、シャルティがたじろぐような表情になった。


「私は、この時代のゴーレムが、どれだけ進化したのか分からんのだ。シャルティ女史。教えてはくれまいか?」


「ええ……そうなの、相手はゴーレムなのね」


「その様子だと、一筋縄ではいかないらしいな」


「ええ、今の時代のゴーレムは、ドラゴンと双璧をなす存在なのです。どんな系統のゴーレムかで対応も変わってくるのですけど、なにより恐れない、恐怖という心が無いのです。そしてダメージを受けても痛覚が無い。そして主人には忠実。持ち前のパワーで、どんな相手にでも立ち向かう……。最新鋭のゴーレムが十体でもいれば、王国騎士団と対等以上に戦えるかもしれないと言われるぐらいなのですわ」


「……ふむ。この時代のゴーレムは、そこまで強大に発展しているのか」


「ええ、味方にしたら頼もしい。敵にしたら恐ろしい。そんな召喚獣ですわ」


 アスカがぽつりと呟いた。


「ゴーレム使いの美人上級生……」


 皆がこちらに注目する。


「んだよ? じろじろ見るな」


 俺はよほど間抜けな顔でもしていたのか? シャルティがため息をついて小さく首を横に振り、アスカがジト目でこちらを見て、なんだか楽しそうにアラタが隠しきれないニヤつき顔をしていた。なんなんだよ、まったく……。


「なんだか真面目に話すのも馬鹿らしくなってきましたわ。ガオンさんには失礼ですけれども、さっさと負けてしまいなさい」


「うーむ……」


 ガオンが頭を悩ませて、うめくような声を出す。


 はぁ、あの綺麗なお姿が、また見られるなんて。考えただけで心臓が高鳴る。


 なんで学年別で上級生と下級生で仕切られているのか……あんな綺麗な上級生のレイナ先輩の姿が日常的に見る事ができないなんて……。


「またうわの空……」


 珍しいアスカの小言も、もはやどうでもいい。

 俺の頭の中は、レイナ先輩の事でいっぱいだった。


「甘酸っぱい夢で終わるのか、辛酸を舐めて手ひどく終わるか、楽しみだねえ」


 アラタの皮肉もどうでもいい。

 また会いたいな。レイナ先輩。


「ダメだな。ずっとこんな調子なのだよ、マモルは」

「マモルだけ手ひどくやられてしまえばいいのに」

「同感だね」

「そうですわね」


 ああ、飯が喉を通らないというのはこんな理由なのかもしれない。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 普通なら痛々しく感じる視線も、もはやどうでもいい。


 早くレイナ先輩に会いたいな。

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