異世界に来たんだが全てを筋肉で解決される話~異世界で召喚獣を出したけどゴリマッチョのおっさんで俺の変わりに俺TUEE無双してくれて魔法学園なのに筋肉で最強になってしまったんです~
石黒陣也
プロローグ
筋肉降臨!!
早く元の世界に帰りたい……。
心の底から願うものの、この時期召喚士のたまごたちが集う学園の入学式で、俺はひたすら長話を聞くしかなかった。
「えー、それでは、この世界の生徒たち、異世界から呼ばれた生徒も含め、召喚士として素晴らしい功績を、残してくれることを期待しております」
はぁ、と大きくため息をつく。
抗う暇も無く勝手に呼び出されて、勝手にこの学園に入学させられ、
無理矢理『召喚士』になることを強いられ、一体どうしろというのだ?
「では皆さん、これから召喚の儀を執り行います。この国立シドリック学園で
これから三年間を共にする召喚獣を呼び出し、学業と共に励んでください」
学園長のシド・ロードサモン・アールフレンド。の声と、他教師たちに促され、ぞろぞろと生徒たちと一緒に動く。
流されるままやってきた場所は、巨大な球状の物体が浮かぶ、奇妙な……いや、ファンタジックといったほうがいいかもしれない。そんな部屋へとたどり着いた。
薄暗いがまったく視界は良好、空を見上げるとプラネタリウムのように砂粒の光があった。そして黄金のランタンがゆっくりと浮遊している。さらにはコツコツコツとどこからか秒を刻むような音がしていた。
「ではEクラスの召喚の儀を執り行います」
俺は1ーEクラスになった。クラスは全部でA~F。本人のステータスに応じて選別されたクラス分けになっている。下からから二番目。異世界に来てまで俺には何の素養も無いのか……。
こういう場合って、異世界に飛ばされた主人公が何かしらのチート能力とかで無双したり、特に何の才能も無いのに女性にだけは囲まれてハーレム生活とか、何か職業的なものを持っていて、それで異世界で食べていくとか。そんなわくわくする冒険譚が待っている物と思われるが、残念だけど俺には何も持ち合わせてはいなかった。って言うか他にも異世界から転移して呼び出された生徒も多数いるので、自分だけチート&ハーレムというわけにはいかないようだ。
所詮異世界だろうと現実は厳しいか。
ガシャン!
そんな音がして、
「うお!」
列を作っている最前列で、どよめきが起こった。
巨大な球状の物体から光が零れ落ち、やがてその光は形を持って現れた。
それは巨大な三つ頭の蛇だった。
「うわあ……」
これが召喚獣か。まるでRPGのモンスターのようだ。
召喚獣は、ほぼランダム。だが補正として召喚した者のステータスが割り込むらしい。たとえば、何かが得意だから、その長所を生かし伸ばしたような召喚獣。あるいは逆に、自分の欠点を補ってくれるような召喚獣。何かしらの強い思いがあり、それを体現したような召喚獣。召喚するには元になった人間の素養が入り込み、それを起点にして現れるらしい。
ガシャン!
次の召喚獣現れた。赤いトカゲ……炎の毛並みを持った……サラマンダーというやつだ。
それからどんどん『ガシャン!』という音と共に、様々な召喚獣が現れた。
このガシャンという音は、一体何の音なのだろうか?
そうして俺の順番が回ってきた。
「小野寺守(おのでらまもる)前へ出なさい」
「はい」
「ではそれを右でも左でもいいので回しなさい」
「…………」
さっきからガシャンガシャンと聞こえてきたのはこれだったのか。
円の中に一本の線が入ったような形のノブだった。
「これ、ガチャのレバーですよね?」
「そうよ、速く回しなさい」
担任になるサラ・スカレット先生が切れ目がちな視線で促してきた。
サラ先生は金髪のストレートヘアーに緑の眼をした、シャープな顔つきの、真紅のスーツ姿の教師だった。
雰囲気的に行き遅れになりそうな先生だなあ。
「…………」
ごくりとツバを飲み込んでレバーを掴む。
何故か、周囲がしんと静まり返っていた。
俺はレバーを右に……いや考え直して左にぐるりと回した。
バン! バン! ババン!
パーパラパパー パッパパーラパパー
爆発音と紙ふぶきが頭上から振ってきて、どこからともなく調子の良いラッパ音が鳴り響いた。
「ええ? 嘘でしょ!」
「え? ええ?」
サラ先生が座っていた椅子を蹴倒して立ち上がった。俺もいきなりの事でうろたえる。
「何? 何が起こったの?」
「まさかEのクラスでSSRどころかURが出るなんて!」
「ちょっとまって! ダブルスーパーレアとかウルトラレアってガチャだよね? これ完全にガチャのアレだよね!」
頭上にある巨大な球体『召喚の器』が目がくらむほどに強い光を放った。
いまだラッパのファンファーレは続いている。
どさり。
目の前に何かが落ちてきた。
強い光を腕で遮断しつつ、落ちてきたものを見る。これは袋……バッグか?
「ハハハハハハハハハ! フハハハハハハハ!」
光の中から快活な笑い声が聞こえる。
そして光が収束し召喚獣の姿があらわになった。
それは全身が健康的な小麦色の皮膚で、眩いばかりの純白の歯を見せながら、それはとてもとても素晴らしい笑顔で、スキンヘッドでティーバックのブーメランパンツに岩石のような筋肉がモリモリの。
――ゴリゴリマッチョのおっさんだった。
「…………」
マッチョなおっさんが満面の笑みをしながらボディビルダーがするサイドチェストというポーズをしたまま降りてきた。
「…………」
俺は何も言えず、酷く冷静な心持ちでマッチョのおっさんを見た。
「ハハハハハハ! 筋肉降臨! 私を引き当てた強者(つわもの)よ! 筋肉の私がやってきた!」
「…………」
「どうした? そんな呆けた顔をして。私の自慢のボディーにさっそく見惚れたか?」
これが召喚獣? ゴリマッチョのおっさんが?
「これから三年間。血湧き肉躍る生活を私が保証しよう!」
「あー、うん。どうも……」
どーしよう。周囲がざわついているが、俺本人としてはどうしたらいいか分からない。
「私の名前はガオンだ! キャッチコピーは『良い筋肉には良い笑顔!』主よ、そなたの名前は?」
「小野寺守だけど、ちょっといいかな……?」
「何だ? マモルよ? 聞きたいことがあるならば隠さずなんでも言ってみよ!」
「そのバッグ、お前の?」
「その通りだが?」
自称ガオン。が現れた時に落ちてきたバッグを指差す。
「いや、そのバッグに、思いっきり『服部まさお』って書いてあるんだけど……」
「いいや、私の名前はガオン! この名はペンネームならぬマッスルネームだ!」
「お前絶対俺のいた世界の住人だろ!」
「はははは、なんのことやら?」
白い歯を見せながら、ビッグスマイルで返してくる服部まさ……ガオン。
「まだ信じられないという顔だな? んん? 私はれっきとした召喚獣。妖精だ!」
「誰かこの中に頭のおかしい人を治せるお医者さんはいませんかー!」
「ハハハハ! 良いジョークだ! ならば見せてやろう。ほうれ」
すると背中から……うわああ綺麗な半透明で、光の反射で七色に輝く三対の羽根がにょきっと現れた。
その綺麗な羽根が軽く振動すると、ガオンがふわりと浮き上がった。
「どうだ、粉う事なき妖精の羽根だろう。私は上級の妖精、それもとっびっきりの最上級なのだよ!」
視線の端でサラ先生が絶句してた。
そんなにすごいのか?
「最上級の妖精。三千九百九十九分の一を引き当てたというの!」
今さらっと排出率言いやがった!
「やっぱりガチャじゃん……」
「まあ細かいことは気にするなマモル。私がやってきた、この学園での三年間を共により良い生活を送ろうではないか!」
快活に俺の肩を叩くガオン。手の平も大きくずしりとした感触が肩に乗っかった。
マジかよ。
俺の異世界での学園生活は。
こんなマッチョのおっさんと過ごさないといけないのか……。
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