危機迫る!!狙われた筋肉!!
邪悪な不審者
「くそっ!」
また勝てなかった。こんな召喚獣でどうしろっていうんだ!
「くそっ! くそっ! くそっ!」
自室で床を何度も強く踏んでも、悔しさが抑えられない。
シャシャーと鳴いて。俺の召喚獣が怯えている。
「なんでお前みたいなのが出てきたんだよ!」
その召喚獣は、頭が三つある、蛇の召喚獣だった。
「ただちょっとでかくなれるだけで、何か毒かがるかもと思えば何にもない! 何でお前みたいなのを引き当てちまったんだよ!」
順列的には、ただのレア。ほんの少し奇妙な生き物。ただそれだけだった。
「ああもう! 俺はもともと爬虫類が嫌いなんだよ! 姿を見せるな! 気持ち悪いんだよ!」
召喚獣に当り散らし、その学生は叫びで蛇の召喚獣を家具の隅へ追いやった。
こんなので、どうやって試合に勝てっていうんだ? ほかの召喚獣はもっと強くて、かっこいいのに、なんでこんなグネグネするだけの生き物がパートナーになったんだよ!
俺は違う! 成績もそれなりに優秀で、ダチも多くて、それなりにリーダーシップも取れて、そんな生活を送っていたのに。こんな異世界に来たとたんこんな始末だ。
納得できねえ!
バカッ!
ひゅうううううううう――
両開きの窓が突然に開いた。
「あーあー、いけないよ。せっかくのパートナーなんだから。仲良くしないと」
「誰だお前は! 三階だぞ!」
その人物は、明らかに宙に浮いていた。
漆黒の鎧を身につけ、剣も腰に挿している。
そして一番不気味に思ったのは、顔の前面を覆う仮面だった。
無遠慮に無造作に、その人物は軽いステップを踏むかのように、室内へ入ってきた。
「そう邪険にしないでくれよ。危害は際得ないからさ」
すっと、足音もなく、仮面の男は学生の顔を付き合わせるほど接近し。
トンッ
仮面の男は学生の額を指で弾いた。
「あ……」
学生が白目を向いてその場に倒れた。
「危害は加えない。だけど三日ぐらいは眠っててね」
シャー! シャー! シャー!
召喚獣の蛇が威嚇の鳴き声とともにずずず……とその身を巨大化させた。
今にも食いかからんばかりに警戒する蛇の召喚獣。
「酷い扱いを受けていたのに、パートナーの危機に怒りを覚えるとは、君は優しいね」
仮面の男はまったく臆することなく、むしろ優しい声で言っていた。
そして、学生に接近したときと同じく、すうっと床を滑るように、そして素早く蛇の召喚獣に肉薄する。
「まだ成長途中で進化もしていないのに、こんな扱いを受けるなんて。かわいそうだね……だけど」
ザクン!
仮面の男は、素早く黒紫に光る宝石のような短剣を蛇の召喚獣の胴体に突き刺した。
シャアアアアアアアア!
苦しみにもだえ、暴れだす蛇の召喚獣。
「まだ成長していないからこそ、この短剣の力を受け入れる許容量がある。今は苦しいけど、受け入れれば楽になるよ」
ばたばたともがく蛇の召喚獣。それをじっと見ている仮面の男。
やがて、蛇の召喚獣は今にも死にそうな体でひくひくと痙攣するだけになった。
「その邪悪の魔石結晶でできた短剣は、君を取り込んだ後に、周囲にどんどん邪気を伝播させる。君が中心になって、さまざまな召喚獣を邪気で狂わせるんだ。すごい、素晴らしい力だろう? 君はもうすぐ邪悪で強力な獣に変わるんだ」
誰にも答えを求めることもなく、仮面の男はさらに告げた。
「そうそう、刷り込みをしておかないとね」
そう言って、仮面の男は蛇の召喚獣に手を当てた。
「命ずる。筋肉を駆逐せよ」
とうとう口から泡まで吹いて、動かない蛇の召喚獣に、仮面の男は「ふふっ」と笑った。
「さあ、楽しいイベントになるといいね。ガオン」
この状況を放り出すかのように、仮面の男は開けっ放しの窓から去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます