第一話 怒涛の初陣! 進撃の筋肉!
元の世界に帰りたい……。
学園の外の事は知らないが、結構科学技術が発達しているらしい。制服もそうだが、壁も床も机も黒板も、見る限りでは俺のいた世界よりちょっとオシャレな空間だった。
「さて、私が担任のサラ・スカレットだ! 私の教え子になった幸運なる生徒たちよ! これからの学園生活、決して甘くないと心得よ!」
うへえ、スパルタ式まっしぐらな人だ。
こういう先生は万国共通でめんどくさい。
1―Eクラス、なかなかの教室の中で振り分けられた席に座り、真っ赤なスーツを着込んだサラ先生が気合の入った声を出す。
そこまで叫ばなくても十分聞こえるんだけどなあ。
「みなの席の上に、黒い板があるな、確認しろ!」
はいはい、ありますよ。何か見覚えのあるやつが。
「そのアイテムの名前は『パレット』と言う。これは大変貴重なものなので、個人登録と起動前の暗号を設定しておくこと! さらには裏側には『目』がある。その目に召喚獣を照らし合わせれば、その召喚獣たちのステータスがパラメーター状に映し出されるようになっている」
うん、知ってた。
「パレットの横にある起動ボタンを押して、パレットに指を滑らせれば操作が出来る。使い慣れないものは専用のペンを使うことを推奨する。さらにはサブ機能としてメモ、パレット同士の文字での文通、計算、その他にも昨日が様々あるが、それ以外に欲しい機能があれば購買部で売っているものを追加しろ」
うん、これ……。
「液タブ、液晶タブレットじゃん」
一部のクラスメート達は扱い方に四苦八苦しているようだが、俺はさっさと個人登録とパスワードを設定した。
「それから、お前たちが着ている我が学園の制服には、自動言語取得機能、ラーニングの魔術が備わっている。着ていればそれだけでこの国の言語を理解し取得し、会話も出来るようになる他にも防御呪文機能などがあるが、配布したプリントに目を通しておくように、ラーニングできていれば読めるはずだ」
うん、読める。十分以上に読める。
だってこれ……日本語だもん。しかも数字の表記もアラビア数字、英語……カタカナ語まで使われている。
この国は象形文字から発達したのか。
「我が世界ではこの『サン語』を使っているが、この言葉はとても複雑で、魔術を扱うにもこの複雑さゆえに特化していた国でもあった」
うん、そうだよね。日本語難しいよね。
「そして『ヒロ語』も取り入れることによって、言葉の社会体系を築いている」
なんだかどうしようもないほどの微妙な気分で顔を手で覆う。
だって異世界だったらさ、知らない言葉や文字にだって、ときめき感をはせたりするじゃないか? なのに台無しだよ。理解できるに越した事はないけどさ。
でもなんか、なんかこれは……。もう言葉で形容しきれない気持ちで一杯になってしまった……。
「ラーニングの能力は使えば使うほど効力を発揮する。各自、積極的にコミュニケーションをとりしっかりと習得すること、わかったか?」
それから延々と、この学校について、召喚士について、召喚獣についてを一時間以上も丁寧に説明してもらった。
まぁ、簡単に説明すると――
召喚士は異世界へ接触できる唯一の職業らしい。そして俺たちは学園の中で、召喚獣をパートナーとして学業と実戦を行う。学業はそのままの意味で通常の勉強、実戦とはいわば試合、バトルだ。召喚獣同士を戦わせ、レベルを上げて、育成していくのだと言う。だが戦い方にも様々な戦いがあり、ただ単に戦うだけでなく、二体二のタッグマッチ、あるいは団体戦と、競技のように速力や筋力、魔力を様々な器具を使って比べあう競技もある。
そして一番重要な事。
『もし召喚獣を死なせたら即刻退学処分』
術者は絶対にパートナーとなる召喚獣を死なせてはいけない。それは精霊や妖精などの、幻獣たちの存在する世界、幻獣界との取り決めなのだと言う。
だから召喚獣同士のバトルの時は、死なせてしまう前に自分から負けを認めるか、試合形式で審判にジャッジしてもらい、戦闘不能とみなされれば、死なせる前にバトルが終わる。なお、喧嘩のような私闘による召喚獣の扱い方は、喧嘩両成敗として両方に処罰が下る。教師や第三者を審判員として用意してでの試合を推奨する。との事。
とにかく絶対にパートナーである召喚獣を死なせてはいけない。
また召喚獣を使役する時、召喚獣に激しい負担を強いる……つまりは虐待が発覚した場合も、厳罰処分、退学処分の対象にもなる。
まとめると大体そんなところだった。
ああそういえば、この学園は召喚士の育成以外にも、魔術士、魔技士、精神士、物理士、医療士などなど、様々な学科が存在しているらしい。だがそれぞれが完全に分割されているため、他の学科の生徒と出会うことはほぼないという。
「今日は入学式だ、授業は無いので、君たちが今後住むことになる寮の部屋分けを伝え、各自に教科書を与えたら残りは自由とする。パレットの操作になれるようになることも、この学園内を自分で歩いて様々な場所を把握すること、なんでも自由だ。好きにしていい。ただし問題行動だけは起こすな!」
まばらに「はーい」と言う声がしてサラ先生が隣にあった大量の教科書を俺たちに渡してくれた。
みんな本当に多種多様な召喚獣を共にしていた。まるでモンスターの育成ゲームの中に来たようだ。
ちなみに俺の召喚獣。筋肉だるまのガオンは、
ずっと俺の横で、ボディビルのポーズを延々とキメていた。
「はぁ……」
肩掛けカバンの中にずっしりと入っている教科書。背中が重くてたまらない。
「なかなかよき教師であったな、マモルよ」
「あー、そうですか」
「これからの学園生活が楽しみだ。フハハハハハハ!」
なんだか悪い夢に出てきそうな笑い声。ガオンはブーメランパンツ一丁で俺のやや斜め後ろを歩いている。
ただ廊下を歩いているだけでも、他の生徒たちの視線が痛い。
知らない男子女子が、ヒソヒソとこちらを見ては聞こえないような声で何かをしゃべっている。
「マモルー!」
「ああ、アスカか」
「これがマモルの噂になってる召喚獣? すごいねえ」
「噂って……」
「もう噂でもちきりよ、落第生予備軍クラスがURを引き当てたって」
「…………」
ああ、だからこの痛い視線がグサグサと刺さってきていたのか。
「アスカと言いましたかなお嬢さん、どうも、筋肉ことガオンと申します」
ガオンはそれはもう立派な大胸筋を見せ付けるように……たしかフロントラットスプレッドというポーズをして、さらに暑苦しい笑顔で自己紹介をした。
「浜辺アスカっていいます。初めまして。こっちは私の召喚獣です」
すると、アスカのストレートロングヘアーからもそもそと、小さな女の子の妖精が現れた。
「お嬢さんの召喚獣は妖精種のピクシーですか。奇遇ですな、私も勇者妖精と呼ばれております」
違うだろ、筋肉の妖精だろ?
「あ、私のことはアスカでいいよ。うん、この子はピクシーのキュアラ。すごいんだとよこの子、数少ない希少な癒しの妖精。回復能力を持っているんだって」
「ほほう、それは良いパートナーを持ちになりましたな」
「うん。ありがとう。だけど、マモルの召喚獣さん、ガオンさんの噂の方が大きいですよ。もうすごいんですから」
「ハハハハハハ、これはお恥ずかしい」
「アスカ……」
「なに?」
聞きたいのはこっちの方だ。
「これ、筋肉のおっさんだぞ?」
「うん、マモルの召喚獣だよね?」
「いや、だから、筋肉のおっさん」
「これも召喚獣なんだよね。色んな召喚獣がいて、ほんとこの学園はすごいよね。ビックリのビックリだよ」
「俺はお前の順応能力にビックリだよ!」
このただ筋肉だけのおっさんを、召喚獣のひとくくりで納得できるアスカが逆にすごい。俺もそんなかわいいピクシーとかがよかった……。
そんな会話をしていると、一人の生徒が慌てるように走ってやってきた。
「おいすげーぞ! さっそくバトってるヤツがいるぜ! Aクラスのドラゴンが試合会場で大暴れしてるぞ!」
初手からドラゴン持ち……そんなのチートだろ?
周囲の生徒達が「見に行こうぜ!」「行って見るか」「ドラゴンとかマジかよ」などとざわざわして試合会場のある方向へ走っていった。
「ほほう、ドラゴンか」
ガオンも興味を示したらしい。
「ねえマモル、私たちも行ってみようよ。本物のドラゴンが見れるみたいだよ」
たしかに、ドラゴンを現実で見れるなんて全く持って無いことだ。ただこの世界では、今後当たり前になるかもしれない。
「よし、俺たちも行って見るか」
アスカとガオンを連れて、小走りで俺たちも試合会場へ向かった。
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