魔人勇者
「まもなくここに、旧魔王軍、大魔王帝国の空戦部隊が到着する。この学園は、朝日を待つことなく、戦火に包まれる」
「なんだと!」
「その理由は、原因は、お前だよガオン!」
「なぜ……」
「大魔王帝国の過激派は、今でも勇者を恨んでいる。そして再び、ピックルスが使役していた勇者妖精が降り立った。過激派の行動は早かったよ。勇者を討ち滅ぼさんと、どんどん志願者が現われた。その数は、八千六百体ほど。お前を倒すためだけに、今もこちらに進軍している」
「…………」
「さて、どうする? 勇者妖精ガオン。お前のせいで、この学園は滅びるんだ」
「アレックス……」
「もうこれはどうしようもないな! お前が一人犠牲になるのなら、何とか大魔王帝国の過激派も、納得はするだろう!」
それを聞いて、ガオンは息を吐いた。安堵の息を。
「アレックス、お前は変わらぬな……相変わらすに、お前さんは優しい」
「……なんだと?」
「破った結界をそのままにして、進入し、警戒態勢を促し、この乱痴気騒ぎを起こしたのも、おそらくは平和ボケした私に活を入れるため。そして今も、まもなく大魔王帝国が襲ってくることを教えてくれた……」
「…………」
「つまりは、アレックス、お前さんでも止める事ができなかったのだな。……この身一つで、この学園の危機が回避できるのならば、喜んでこの身を捧げよう。ありがとう、アレックス」
「…………」
「なあ、アレックスよ。なぜ今も、その剣を持っている?? 魔王にトドメを刺した聖なる剣……持ち主の精神力を、さまざまな形で無限の力に変える、神界で作られた聖剣、バスターウイングソードを……」
アレックスは、腰にある剣を握った。
「これはただの雑魚避けさ、今でも、俺が勇者だったことに業を煮やして、つまらん事を画策するやつがいるからな」
「私は、それだけとは思えぬがな」
「…………」
アレックスの表情は、無表情だった。
それはとても虚しく、乾いたような表情だった。
「すまなかった、アレックス。私たちは魔王を倒すだけに躍起になっていて、その後のことを一切考えていなかった。……みなが新しい道を開いていく中で、お前は必死にその後処理を、尻拭いをしていてくれたのだな……」
「…………」
「本当にありがとう、アレックス」
「…………」
短い沈黙。
流れる風。
日が落ちて、夜が訪れる空。
魔王を討伐したその後、百二十年も旧魔王軍を導いていた本当の勇者。
ガオンは、静かに頭を下げた。
「そして重ね重ねすまなかった、アレックス。お前を孤独にしてしまっていた」
「……まあいい、くだらない水掛け論はしたくない。せいぜい八千を超える魔族たちを、一匹でも多く抑えることだ、ガオン」
「ああ、伝えに来てくれてありがとう」
「…………」
ばさり
魔人勇者アレックスのマントが翻り、その姿が消えた。
「…………」
ガオンは頭を上げ、
「さて、行くか」
マモルたちの下へ走り出した。
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