俺はこの病に正確な名前をつけられない。

 まったく、俺はどうしてしまったんだ!


 あのゴーレムにガオンが負けて倒されてしまえば元の世界に戻れるというのに……なんで俺はガオンを助けなければと思っているのだろうか。


 全力疾走なんて体育でもやらねえ。


 心の中で早鐘が鳴り響いてる。ガオンを助けないと、と……。


 一体俺はどうしてしまったんだ?


 大きな喜びもいらない、大変な不幸もいらない。


 ただただ平坦な道を、ゲーム片手に歩いている人生でよかったのに。


 こんな異世界で馬鹿にもほどがある事をしている。


 あの脳筋どころか頭のてっぺんから足先まで、さらには骨の髄まで筋肉でできてるような、魔法もなんもへったくれもないただの筋肉のおっさんを……。


 俺は絶対に救いたいと思っている。


 プロテインを分け与えなかった罪悪感だとか、見捨てる事に良心の癪に障るとか、そんな事どうでもいい。


 今はとにかく、急いでプロテインを!


 あんな筋肉馬鹿で筋肉フェチで筋肉だるまのアイツの――


 負けるところなんて見たくない!


 だから俺はこうして柄にもなく全力で走ってる。


 俺は何かの病気にでもなったのか?


 何かの病にまいってしまったのなら。


 是非、今のこの気持ちに病名を付けてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る