プロテインとは……

「はぁ! はぁ! はぁ!」


 こんなに走ったのは久しぶりだ。


 購買部に飛び込むような勢いで中に入る。


「私、牛乳とって来る!」

「くっそ、プロテインはどこだ!」


 購買部といっても、大型のスーパーマーケットのように広い。辺りを見回すが、背の高い陳列棚でどこにあるのかさっぱりわからない。


「おばちゃん! プロテインってどこ?」


 ちょうど棚の整理をしていた中年の女性に声をかける。


「向こうの二列先のところだよ」

「ありがと!」


 早足で探し回る。


 あった。プロテインだ!


 小さな袋からビッグサイズのもの、味の種類まで……どれがどれでどれがいいのかわからねえ!


 適当に大袋のプロテインを掴んで商品名を見る。


 文字の読み書きは、このブレザーの制服に付与された魔術、言語取得の魔術が付与されているので、異世界の文字でも完全に理解できている。


 商品名は――


 スーパープロテイン日本限定版、なんだこれ? なんで日本の製品がこんなところにあるんだ?


 たぶん、日本製品……自分の世界かパラレルワールドの日本製品ものだろう。


 もうこれでいいや。


「うん?」


 袋に書かれている名前のロゴの斜め下に、何か商品名が続いている。


 それは――


『スーパープロテイン日本限定版、松本○志ヴァージョン』

「なんだこれええええええ!」


 なにこれ? 松本○志? あの芸能人の松本○志の成分でも入っているのか? お笑い芸人のプロテインって何だ?


「あれ? こっちは――」


『スーパープロテイン日本限定版、ケイン・○スギヴァージョン!』


「こっちはケイン・○スギかよ!」


 何これ? 味とかじゃなくて何かしらの成分か? コンセプトで作られたのか?


 商標的に大丈夫なのかコレ? いいの? これっていいの? セーフなの?


 最近のこの手のコラボ企画は、本当に見境がないな!


 日本製品、胡散臭さがマックスだ! どんだけ日本はコラボ大好きなんだよ!


 特別増量二十パーセントって書いてあるけど、怪しさ百二十パーセントだ!


 コレでいいのか本当に?


 日本のプロテイン産業は何をしているんだ?


「あっ」


 こっちのは、Choー……『チョー』って書いてある。


 チョー、『超』ってことかな?


「マモル! どこ? 牛乳と蓋付きのコップ見つけたよ!」


 アスカの声が聞こえてくる。


 もういいや、コレにしよう。『超』って言うからにはきっとそれなりの高タンパクなんだろう……。


「俺もプロテイン見つけたぞ!」


 アスカと合流して二人でレジに駆け込む。


「二千三百五十トッドです」

「はい!」


 三千トッドの紙幣を渡す。トッドはこの国の通貨の名称だ。


 おつりを受け取り、購買部を出て、近くにあったベンチで大袋のプロテインの封を開ける。


 と――


 なんだ? 『チョー』の続きが書いてあるぞ。焦っていたため見落としていた。


 〈Cho―noヴァージョン〉


 チョーノ? 超の? 


 いや違う、ちょーの、ちょうの……蝶! 蝶野!


 蝶野○洋ヴァージョンかよ!


「なんじゃこれえええええええ!」


 蝶野って、あの蝶野さん?


 わざわざとある落語芸人にビンタをするためだけに、毎年大晦日に現れるプロレスラーのあの人? あの蝶野○洋ヴァージョンってこと?


「マモル! 早く!」

「ええくそ、もうどうにでもなれ!」


 コップに牛乳を注ぎ、プロテインの粉をザックザック入れて蓋をする。


「これでよし。戻ろう!」


 とにかく急いで戻らないと!


 ガオン、お前は今大丈夫なのか?

 間に合え!

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