勇者妖精 ガオン

とうとう夢にまで出てきた。

「みんな! 大丈夫!」

「ああ、大丈夫だとも!」


 なんだ、何だこれは? 夢の中?


「ピックルスと契約を交わしたときから、死ぬことなど恐れたりはしていない!」

「こんなところまで来て、負けるわけには行かないぜ!」


 見たこともない獣たち……大勢の召喚獣たちが奮起している。


「みんな……」

「世紀最大の偉業。魔王討伐。命をかけるに値する!」


 屈強な召喚獣たちが、少年を中心に立ち上がる。


 周囲は真っ赤な炎に染まり、空から溶岩の塊が次々と降ってきては、周囲で爆音が散らばり、高熱の風が荒々しく吹いている。


 魔王のインフェルノメテオ。最高級の魔術のひとつだ。……何で俺はこんなことを知っているんだ?


 そしてその少年は、まだ幼さが少し残る、眼鏡をかけて、なんだかものすごい造形の杖を持った……召喚士?


 俺はその召喚士を見ている?


 なんだこれは?


 どうなっているんだ?


「でも僕は、君たちを死なせたくない! もう命のやり取りの繰り返しなんてしたくないよ! 人間でも、魔族でも、召喚獣でも!」


 召喚獣たちが、お互いに顔を見合わせた。

 そして、少年を見て、みんなが笑った。


「そうだな。じゃあ、魔王をぶっ倒して、みんなで帰ろう!」

「おうとも!」

「たしかに、こんなところまで来ては死に切れないな!」


 そして俺の口からやたらでかい声が吐き出された。


「この筋肉も、ピックルスの言葉に、大胸筋から大腿四頭筋まで打ち震えている!」


 あれ? なんだこれ?


「俺たちは負けねえ! 死なねえ! こんなところで死んでたまるか!」


「みんな……」


 それは、確かな絆。召喚獣と、たった一人の少年の強い絆。

 そして彼らを鼓舞した、揺るがない意思と大きな優しさ。

 そして勇気の――


『みんな筋肉で健康になろう! 準備はいいかなー?』


 そんな声が飛んできて、俺は自分の体を見た。


 俺の体が、とんでもない筋肉もりもりの、マッスルボディーになっている!



「ふが……」


 チャンチャンチャラララ♪

 チャララララ♪

 チャラララチャンチャンチャン♪


 またかよ……眠い。


「う、ううう……」


 まるでゾンビのようにうごめいて、はっとなって飛び起きる。


「筋肉!」


 俺は急ぐように体中をまさぐる。……良かった。もりもりマッチョな体じゃない。ちゃんと俺の体だ。


「おう、起きたか。マモル! おはよう!」


「お前なあ……」


 ラジオ体操をし、朝っぱらから元気はつらつのガオン。


「外でやれよ外で……」


「うむ、そうだのう。マモルが私に自由で単独の行動を許してもらえるのならば、そうしよう!」


「……なんで俺の許可が必要なんだよ? 勝手にしてろよ……」


「だが、マモルと私とではパートナーシップが築かれている。だからマモルの許可が必要だ」


「じゃあ、今度から……いや、今から単独行動を許可してやるから。外でやってくれ。俺は朝飯まで寝てるから……」


 再びベッドに横になって、毛布で体を包む。


「あい分かった! 今度からは外で朝日を浴びてトレーニングをしよう!」


「……今からやってくれ」


「では、朝食の時間に近くなったらマモルを起こしにくるとする」


「ああ、そうしてくれ……」


 あああくそ、なんかすごく変な夢を見た気がするが、何も覚えてない。


 何を見たんだっけ?


 ……まあ、いいか。


 心地よい眠気が再び現われ、俺は二度寝に入った。

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